RTI -九条天-


 TRIGGERの九条天は、天使だ。どんな時でも笑顔を忘れない。ファンを一番に考え、感謝の気持ちも忘れない。彼の「ありがとう」の言葉は重みがあり、人々はそれを正面から受け止めるのだ。TRIGGERのファンでよかった、とこれからも応援しようと、思わせる彼の力は尊大なのだ。
 事実、彼は一躍脚光を浴びた。メンバーの八乙女楽と十龍之介とは違うタイプの魅力で皆を虜にしていた。

 一方で、九条天(仕事モードオフ時)は、毒舌だ。年上に物怖じせず、馴れ合いは好まない(恥ずかしいだけ)。プロ意識が高く、人が見ていないところで練習に励む努力家だ。そして、公表はしていないが、双子の弟・七瀬陸を大切に思っている(ブラコンだ)。

 実は、天と陸とは幼馴染だ。天が「七瀬」の時から。
 遠くに行ってしまった天を、少しお姉さんの私が毎日のように励ましたのもつい最近のように思い出す。陸はいつしか「大好きな天にぃ」から「家族を捨てた兄」と言葉を変えてしまったが、内心は大好きで大好きで仕方がなく、「TRIGGERの九条天」が世に出た時からずっと影から彼を見てきた。そのことを、私は天に言うことはなかったーーというよりも、私もまた、天と連絡が取れず、TRIGGERの存在を陸から聞いて知ったのだ。
 たった一人の自分の片割れを置いて(仮にも友達だった私も置いて)勝手に行きやがって……!
 制止する陸を振り払って私はズカズカとTRIGGERの楽屋にノックもせずに踏み入れる。「こらあぁ、てんてん! やっと見つけたよ、てんてん!! 勝手に行きやがってゆる、ゆ……許さないんだ、からっ! う、うぅっ、馬鹿あぁあぁああぁっ!!」、と私は入って早々天の姿を見るなり泣いてしまった。隣にいた八乙女楽と十龍之介はさぞ困ったであろう。それでも、連絡が途絶えていた彼を目の前にすれば理性なんで吹き飛んでいた。天は私を見るなりため息をつけば「ボクはもう“九条”天なんだよ、。この意味、分かる?」なんてほざきやがった。そんなの知るかよ、バカヤロウ。数分後、私と天の再会は彼らのボディーガードさんたちの手によって再び引き裂かれた。

 そんな彼からラビチャが来て「今度、単独ライブがあるから見においで。チケット、用意しておくから」とTRIGGERのライブに誘われた。うん万人と収容できる大きな会場で、TRIGGERがいかに人気か思い知らされた。
 その後、控室に呼ばれた私は、今度はノックして扉を開けた。「お疲れさまです、皆さん。あ、れ……天ー?」、と周りを見渡してもその部屋に人の気配はなく。呼ばれた部屋を間違えたのかなと立ち去ろうとした時、背後から懐かしい匂いに包まれた。あぁ、この感じ……。「天……」そう呟けば、「そうだよ」と返ってきた。いつの間にか身長を抜かされたためか、彼の顔が私の首筋にある。「」と消え入りそうな声で私を呼べば「正直、もう嫌われたのかと思っていた」と苦笑した。
 嫌いになるわけないのに。陸も、私も。天が大好きなのに。
 馬鹿ね、と天の頭を撫でれば「子ども扱いしないでよね。もうよりも背だって高いんだよ」と首筋に顔を埋めた。くすぐったいよ、なんて笑えば彼は急に動きを止めて私の正面に立った。どうしたんだろうと疑問符を浮かべれば「好きだよ、。子どもの頃からずっと、君を想っていた」と告げられた。一瞬、彼が何を言っているのか理解できなかったが、それが「告白」だと気付いて私の頬は紅潮した。答え、そんなの決まってる。「私だって、ずっと、ずっと、好きだったんだから!」「うん、知ってる」、と天は誇らしげに笑った。



 それから数カ月経った、一月のある日。
 TRIGGERのファンになった私はメディアを通して知ったのだ。三グループ合同でのドーム公演、という嬉しいニュースを。きっと本人はメディア公表前から知っている。そういえば、数日前にも彼に会ったが「ライブDVD買ったよ〜」と話をした時、どこか落ち着きがないようだった。気心知れた相手に口を滑らしてしまわないようにということだったのであろうか。
 公表されてからは慌ただしい生活になったようで、会える頻度がめっきりと減ってしまった。ラビチャでの連絡もーー。



 そして、来る七月八日。私は事前通販で買った薄いピンク色のリストバンドを左腕につけて、埼玉県の某ドームでたくさんペンライトを振ってきた。アンコールの「NATSU☆しようぜ!」で目が合ったかもしれない天に水鉄砲を向けられてそれを食らった。隣の人も天推しのようで「天くんにかけられちゃった〜〜」と幸せそうにしていた。天も天で、陸と肩を組んで歌って幸せそうに笑っていた。
 二日目のライブが終わって数時間後、天から「玄関前にいるから」と目も疑いたくなるようなラビチャが届き、私はすっ飛んで鍵を開けた。

「て、天、ホテルに泊まるんじゃ……」
「何? ボクがの家に来たらいけない理由でもあるわけ?」
「そんなこと、全く無いです」
「そ。じゃあ上がらせてもらうよ。シャワー借りるね」

 彼は即、お風呂場へと向かった。好都合だった。その間に部屋を片付けたり準備したり出来る。そう思い、出しっぱなしだったTRIGGERのDVDを棚に戻し、雑誌もまとめた。ソファにぐしゃぐしゃに置いていたタオルケットは畳み、天くんきらどるぬいぐるみも綺麗に並べ直した。

「あっ、バスタオル……! てんてーん! バスタオル洗濯機の上に置いておくから使ってーーっ?!」

 ガラリ、と私が脱衣場に入るのと同時にお風呂場の扉も開いた。ビックリして思わず立ち尽くす私からバスタオルを取ると、何事もなかったかのように体を拭き上げ、腰にそれを巻いた。

「……何? ボクに何かついてる? それともーー見惚れちゃったの?」
「え、えっ……」
「ふふっ……ずっと、こうしていようか?」
「馬鹿、何言って……は、は、早く服着なさい!」

 天が持ってきた物と思われる下着を彼に投げつけようと手を振り上げれば、その手首を掴まれてしまった。

「なっ、なな、なにっ?!」
……ちょっと、はしゃぎ過ぎ」
「へ?」
「それと……ちょっと、あわて過ぎ。びっくりし過ぎ」
「あ、あの……て、天?」

 ちょっとおかしいなと彼に問えばぷっ、と吹き出してごめんと言った。そうだ、あれだ。TRIGGERのMCで楽さんと龍さんが天のお得意の「ちょっと、はしゃぎ過ぎ」を取ったんだった! こいつ、今ここで、それを発散してんだな。どこどなく上機嫌なのはそのせいか。
 そんな彼に仕返しがしたくて、私は目一杯背伸びして彼の首に腕を回す。

「天、ちょっと……格好良過ぎ」
「当たり前でしょ。ボクを誰だと思ってるの?」
「TRIGGERの九条天、でしょ」
「……違う。の前では、ただの九条天でいさせて。TRIGGERの九条天なんかよりずっと格好いいところ見せてあげる」

 ゆっくりと近づく距離を阻むものは何もなく、私は九条天と深い口付けをしたのだ。絡み合う舌が徐々にエスカレートし、終いには体を這うことを知っていたとしても。
《終》

>>2018/07/30
力尽きました……。書いていく度に文字数が多くなっている気がします(てんてんは推しですから特に)。