RTI -八乙女楽-


 TRIGGERの八乙女楽は、クールで格好いい。テレビ番組やインタビュー記事等、トキメクような甘い言葉をサラリと言う。世の女性の多くが落ちないはずはないだろう。事実、彼はとある雑誌のランキング「抱かれたい男No.1」に選ばれている。高身長・程よい筋肉もまた、女性を虜にするのだろう。

 一方で、八乙女楽(仕事モードオフ時)は、熱い男だ。言いたいことはハッキリというし、曲がったことは嫌いだ。
 人一倍仲間思いで、センターの天と口喧嘩はしても彼を大事に思っているからこそなのだ。また、家族も大事にしており、母方のお蕎麦屋さんの手伝いに行くこともある(私も時々食べに行ってる)。
 クールキャラのせいで女遊びが激しいと噂されることが多々あるが、それは大きな間違いで、実のところたくさんの彼女なんていない(女性への扱いは上手だが)。自分で言うのも何だが、私だけだ。スマートフォンの連絡先もTRIGGERの天くんと龍之介さん、八乙女社長(お父さん)、姉鷺マネージャー、楽のお母さんたちしか入っていなかった。疑わなくても、幼稚園生の頃から楽と一緒なんだから、そんなことくらい分かっているつもりだ。
 ーー楽は、人を大切にする。同性・異性問わず。



 そんな彼からいつものラビチャが来た。「今度、単独ライブがあるんだ。見に来いよ。チケットは明日届くはずだから」とTRIGGERのライブに誘われた。うん万人と収容できる大きな会場で、TRIGGERがいかに人気か思い知らされた。
 その後、控室に呼ばれた私はおそるおそる扉をノックすれば「どうぞ」とテレビで聞いたことのある声が返ってきた。ーーTRIGGERのセンター・九条天だ。
 楽はいないのだろうか? 自分が一方的に知っているだけの(と言っても名前と顔だけ)人と二人きりでいられるものか。でも、もうノックしてしまった。ドアノブを回すのをためらっていれば「入らないの? 楽の関係者でしょ?」と何もせずとも言い当てられてしまい、目の前の扉が開いたのだ。「ふーん? 君が、楽の……?」、と彼は私のつま先から頭のてっぺんをジッと見ては「まぁまぁだね」と零した。何、この子。テレビとだいぶ印象が違うじゃない。そう言い返してやろうかと口を開きかけた時、彼の脳天めがけて拳がゴツンとおりてきた。「俺の女にケチつけてんじゃねえよ、ガキ」「は? そんなことでいちいち手をあげないでくれる? これだから熱血漢は」「んだと? ガキは黙ってろ」「ガキガキうるさいよ」、と九条天と私が会いに来た人が口論をし始めた。
 いつもなら楽よりも背の高い十龍之介が止める役らしいが、今はその彼がいない。仕方ない。私は間を詰めていく二人に割って入り、楽をぎゅっと抱きしめた。「楽、もう止めて?」。懇願するように上目遣いで訴えれば、楽はハッと我に返った。それから私の頭をグシャグシャに撫でた後、思いっきり抱きしめ返すのだ。「悪かったな。これはだな、その……単なる挨拶みたいなもんだ。気にすんな」「うん、そうだね。驚かせてごめんね、ちゃん。いつものことなんだ、この二人が口喧嘩するのは。ほら、天、彼女に謝って?」、とようやっと現れた仲裁人は九条天の頭を押さえつけた。



 それから数カ月経った、一月のある日。
 TRIGGERのファンになった私はメディアを通して知ったのだ。三グループ合同でのドーム公演、という嬉しいニュースを。きっと本人はメディア公表前から知っている。そういえば、数日前にも彼に会ったが「ライブDVD買っちゃった〜」と話をした時、どこか落ち着きがないようだった。気心知れた相手に口を滑らしてしまわないようにということだったのであろうか。
 公表されてからは慌ただしい生活になったようで、会える頻度がめっきりと減ってしまった。毎日やり取りをしていたラビチャも、その通知音がやって来るのは数日に一度だった。



 そして、来る七月七日。私は事前通販で買ったグレー色のリストバンドを左腕につけて、埼玉県の某ドームでたくさんペンライトを振ってきた。
 やっぱりTRIGGERは凄かった。
 デビュー曲・DIAMOND FUSIONが流れればどっと沸き起こる歓声。九条天が決め台詞を言い放つ度に女性陣はぶっ倒れていた(気持ち的に)。それから、あの十龍之介の衣装。あれは、上裸同然だ。セクシー過ぎる。焼けた腕も逞しくてフェロモンを漂わせていた。(一応八乙女楽推しの)私も叫んでしまった。楽はというとーー。

「緊張した?」
「してねえよ」
「本当に?」
「してねえって」

 あろうことか、MCで名乗るのを忘れたのだ。
 宿泊先のホテルで一晩一緒に過ごすことにした私たちは、今、こうして夜のまったり時間ーーと言う名のイチャイチャを楽しんでいる。

「嘘つけ〜」

 ぷに。楽の口の端を人差し指で突付けば、彼はフッと笑ってその手をつかみ口元へ引き寄せる。

「やっ、ん……っ!」

 ちゅっ、ちゅっ。
 指の先、爪、関節、と少しずつずらしながらリップ音を立てていく。彼を見てみればそれはもうイケメン過ぎてぶっ倒れちゃうくらいの表情をしていた。

「……楽、嘘付く時って口元引きつってるの、自覚してる?」
「なっ……?!」

 冗談だよ、お疲れさま。頑張ったね。ポンポンと膝を叩けば彼は行為を一旦止めた。

「ご褒美、あげる」
「……膝枕か?」
「文句あるの?」
「ねぇよ。ただーー……」

 頬撫でられて顎をぐいっと持ち上げられれば、それは、もう楽のお得意のシチュエーションで。

「その前に、キス、してもいいか?」
「ダメって言ってもするんでーー、んっ!」
《終》

>>2018/08/20
大方出来上がっておりましたがずっと更新できずにおりましたorz
そして、アイナナ3周年おめでとう!