和泉三月は、可愛い。とにかく可愛い(見た目が)。「三月くん、今日も可愛いよ!」なんて言ったら「バーカ!
の方が何倍も何十倍も可愛いんだぜ!」なんて太陽みたいな笑顔で言ってきやがった。
前言撤回しよう。和泉三月は、見た目とは違い男前だ。いつも気遣ってくれる。デートをすれば必ず歩道側を歩かせるし(さり気なく)、両手に荷物を持っていればスッと荷物を持ってくれる(あくまでもさり気なく)。彼と話せば不思議と元気が出てくるし、彼の笑顔を見れば自分までもが笑顔になる。おまけに料理が上手。最高の嫁、否、恋人だ。
そんな彼が私を抱きしめて「やったよ、
……オレ、オレ……アイドルになるんだ……っ!」と人目をはばからず大泣きした。「兄さん、ここ、うちの店の前ですから」と弟の一織に苦笑されながらも、三月くんは私を離そうとはしなかった。
IDOLiSH7の和泉三月は、可愛くてMCが上手な皆のまとめ役だ。
まとめ役なのは一織と私と三人で遊ぶ時から変わらない。学生時代も同じで、彼の周りにはいつも人が集まっていた。
ただ一つ問題があった。どこにいっても彼のそのルックスは「可愛い」だ。でも、本人は「格好いい」と思われたくて態度の言葉も「男」なのだ。つまり、見た目と中身にギャップがある。彼を好きな理由が「可愛いから」と答えた人は、彼の中身を知った途端離れていってしまった。それが主な原因かはわからないが、三月くんのファンはいるにはいるが「一番好き」と答えるファンは少なかった。
本人もそのことに薄々とは気付いており、時折暗い表情をしていた。心配だった私は「三月くんは三月くんのままでいいんだよ」となだめたこともあった。痛々しい笑顔が、いつかホンモノの笑顔になりますようにと願わずにはいられなかった。
そんな彼から「実はさ、来週ライブがあってさ」と彼らしくもない控えめなラビチャが来た。「自分自身が笑顔でいなくてどうするの」とカツを入れ、当日、私は三月くんカラーの洋服で行った。今でも覚えている。私を見つけた瞬間、三月くんは涙を流しながらも前に拳を突き出して「サンキュ!」と合図を送った。あの時は私を入れてもたったの十人くらいだった――……。
それから数カ月経った、一月のある日。
アイナナのファンでもある私はメディアを通して知ったのだ。三グループ合同でのドーム公演、という嬉しいニュースを。きっと本人はメディア公表前から知っている。そういえば、数日前にも彼に会ったが、どこか落ち着きがないようだった。気心知れた相手に口を滑らしてしまわないようにということだったのであろうか。
公表されてからは、三月くんは事ある毎に「ライブ、楽しみにしていてくれよな!」「
も絶対に来いよ!」「四万人いても
を探し出してやる! あっ、二人だけの合図も決めようぜ!」と楽しそうにしていた。
ライブまで一週間を切ったある日のこと。
リハーサルで忙しいはずの三月くんからラビチャが届いた。「おーい、
、起きってっかー? 玄関開けてほしいんだけど!」と。何ですって? いつでも寝られる準備をして撮り溜めていたドラマを見ていたものだから、正直人に会える格好ではない。パジャマだし、すっぴんだし、髪も適当だ。
「ちょ、ま……っ?!」
「いつまで経っても出て来てくれなかったから入ってきたぞーって、
? あ、わ、悪かったな……そ、その、後ろ向いてっから!」
「み、みつ……ご、ごめんね! 急いで着替えるから!」
タイミング悪く、シャツもズボンも脱いでいてモロ下着姿を見られてしまった(しかも勝負下着ではない)。耳まで真っ赤にした三月くんはサッと後ろを向いてくれたが、恥ずかしくてモタモタしてしまい、ズボンの裾を足で踏んで盛大に転けた。
「大丈夫か……っ?!」
「あ……うぅ……平気。もう恥ずかしくて、もうなんだかごめんなさい」
いっそのこと、穴を掘って入りたい。手が届く範囲にブランケットがあればまだ良かったものの、そんな物はもちろんなかった。無様に片足にだけ通っているズボン(パジャマ)が更に恥ずかしさを煽り、私は目頭が熱くなるを感じていた。
その時だった。すぐさま駆け寄り隣りにいた三月くんの顔が近くなったのは。
「
」
「う、うん……」
「ごめん、オレ……我慢出来そうにないかもしれない」
「え? どういう……っ?!」
どういう意味なの、と言葉にしようとしていたのに。
「っ、んぁ……み、三月く、ん……っ!」
「うん、
、
……可愛い」
三月くんの舌が私のを絡めとり、吸っては離してまた吸い付いて。口内をとろとろにされていく。
「んっ、ふ……ぁ、やっ、やめ……っ、そ、そこ、さわっちゃ……!」
かと思えば、三月くんの手は下着越しに秘部をなぞる。いやらしくてやさしいその手にいつもの彼からは可愛らしさは消えて、私は変な気持ちになってしまう。もっとさわって、直接さわって、もっと、もっと。私をとろけさせて。三月くんでいっぱいにして。そう思うたびに、ショーツが濡れていくのを感じていた。
「み……み、三月くん……もっと、もっとほしいの……」
上目遣いでお願いすれば、彼は「それだけ?」と催促をする。彼のほうが一枚上手だ。
「三月くん、お願い……続き、しよ?」
「してほしかったらどうするか、この間言ったよな?」
「うっ……こ、ここに、三月くんの……いれてくださいっ!」
そう言って私は四つん這いになって彼にお尻を向けて突き出す。口角を上げて笑った三月くんはショーツを脱がすことなく、ずらしてから湿っているあそこへと指を這わしてこう言うのだ。
「……よく出来ました」
そして、来る七月七日。私は、事前通販で買ったオレンジ色のリストバンドを左腕につけて、埼玉県の某ドームでペンライトを振っていた。
先日のことを思い出しては恥ずかしさのあまり顔を背けてしまうけれど、彼は彼で私の家に来る前にどうやらお酒を飲んでいたらしく(本人はどれくらい飲んだか覚えていない)、ほろ酔い状態だったらしい。本当の目的は、ライブのためにマニキュアを塗ってほしかったんだと、目が覚めて言われた。お互いに生まれたままの姿だったが。
《終》