二階堂大和は小鳥遊事務所所属・IDOLiSH7のリーダーだ。言葉ではへらへらとしていたりふざけているようにも見えるが、実はとても面倒見がいい。それは自分のグループだけではない。IDOLiSH7のユニットであるMEZZO"のマネージャーとして新しく小鳥遊事務所に採用された
にもそうだった。環の叫び声が聞こえて駆けつけた社長室前の廊下で待機していれば、想像通りの出来事が起こっていて。入って早々に凹んでいた彼女に声をかけたのだ。あくまでも、IDOLiSH7のリーダーとして。
その時出会って分かったが、MEZZO"の新人マネージャーである彼女は、以前自分が助けた人だった。また会えたらいいななんて柄にもなく思っていた彼にとって、この再会は奇跡とでも言いたくなるような出来事だった。
それからというもの、影から彼女を見守ろうと決めた大和は、時間があれば事務所を覗いた。撮影がある日は純粋な環に「アルバイト」と称して自分のマネージャーでもある
の動向を逐一報告させたこともある(勿論、報酬は王様プリンだ)。
MEZZO"のマネージャー業は、なかなかの多忙だった。
彼女が倒れた日、大和も同じスタジオで一日中撮影があった。撮影と撮影の合間に時間があり、且つ、MEZZO"の撮影も同日同時間帯ということは事務所のホワイトボードで確認済みだ。前日に拝借したスタッフ用の帽子を目深にかぶり、特徴的な髪を帽子の中に収めるようにした大和は人目につきにくい場所から
を探していた。
しばらくすればフラフラの彼女がやって来たのだから、焦ったものだったーー。
「なあ、
ちゃん……」
まっしろのベッドに横たわる
の頬を撫でながら、大和は呟く。
「これ以上、無茶しないでくれ……心配かけさせないでくれよ……」
めげずに頑張る彼女に、自分までも頑張ろうって思う気持ちになるのは確かだ。それでもーー。
影からこそこそ守ることしか出来ない大和は、今自分を縛る「立場」が疎ましく思えた。この立場のおかげで彼女と巡り会えたことには感謝をしているが。
この矛盾に苦笑し、ふと腕時計を見れば午前七時五十分。午前の面会時間が始まってしまう。MEZZO"の二人がやってくる前に立ち去らなければ。
「また見計らって来るから」
一晩中繋いでいた右手をそっと離し、大和は音を立てないように静かに腰を上げて病室を後にした。
午前八時過ぎ。壮五は病院で面会の受付をしていた。その間、環は待合室の長椅子に腰掛けて壮五を待っていた。この後も仕事が入っているため長々と居座りつもりはない。少し様子を見に来ただけだ。それなのに、たった少しの面会のために時間がかかり過ぎではないか。
環はなかなか受付から帰ってこない壮五に段々と苛立ち始める。気分転換をしようとスマートフォンをポケットから取り出した時だった。見覚えのある背格好の人物が、奥の通路から自分たちが入ってきた出入り口とは異なる扉へと向かって行った。
「あれ? ヤマさんがいたような……」
「大和さんは役者の撮影が入っていたはずだけど」
「そっか、そうだよな。いるわけねえもんな……って、そーちゃんいつの間に戻ってきたんだよ。マジでビビった」
昼もとっくに過ぎた頃、人のぬくもりで目が覚めた
はボーッとする頭を押さえつつも体を起こした。夢だったのだろうか。誰かと手を繋いでいたと思ったのに。自分の手のひらをしばらく見つめていたが、枕元にあった紙に気付き、丁寧に開いた。
『周りをよく見ろ。あんたが思っている以上に、皆、あんたのことを頼ってる。心配してる。無理しなさんな』
名前はないが、文面でわかってしまう。
「や、大和さん……大和さんっ!」
自分は幸せモノだ。こんなにも自分を見ていてくれる人が回りにいる。しかも、彼にまで。上手く言えない代わりに涙がはらはらと落ちてゆく。
「やま……大和さ……大和さん……!」
「あ〜〜。ちゃんと隠れてたつもりだったのになー」
「わっ!? 大和さんっ!?」
「え? 何その反応。俺がいるって分かったから呼んだんじゃ……って、ああ、それね……」
ソファーの後ろに身をひそめていたらしい大和は苦笑いしながら
の元へと歩み寄る。近づく距離に胸がドキドキして顔すらまともに見れない、と
はうつむき加減になる。
「照れてんのか?」
わざとらしく口角を上げた大和はベッドに座り、彼女の顎を支えて視線を無理矢理合わせる。頬が真っ赤だ。何を言い出すかなんて想像が出来る。
「わ、私……大和さんが……!」
「あーー、タンマ。その続き、やっぱ俺から言うわ」
続きは言わせない、と
の口を手で覆う。片手で眼鏡を外して布団の上に置けば、彼女との距離を一気に詰める。
「
ちゃん、俺はあんたが好きだ」
《終》