手鞠花を君と彩る<大和編 2>


 小鳥遊事務所から送られてきた一通の封筒は、アイドルのマネージャーをやってみないかという直々のお誘いだった。今まで就いたことのない職種でもあり、ましてや雇用主側からのお誘いということもあり興味が湧いたはさっそく下調べに取り掛かった。
 アイドルには人並みの知識しか持ち得ていない彼女ではあるが、彼女には強みがその分野に関しては強みがある。小学生時代からの相棒でもある、彼ーー十龍之介の存在だ。なんせ彼は、あのTRIGGERの十龍之介だ。同業者の彼にとって、小鳥遊事務所所属の男性アイドルについて周知しているはず。彼にラビチャで「デビューしたばかりのMEZZO”ってどんな感じ?」と送った後、PCで検索をかけてみることにしたのである。

 こうしては三日三晩、熱烈な信者のようにMEZZO"についてを調べ上げてレポートを作成した。
 ーー水色の髪の人は「四葉環」。四月生まれ。王様プリンが大好き。王様プリングッズも好きで、部屋中にある。生き別れになった妹がいる(ガセ情報かもしれない)。ダンスが得意。勉強全般苦手。
 ーー色素の薄い髪の人は「逢坂壮五」。五月生まれ。かなりの辛党で、何でもタバスコをかける。FSCの御曹司(ガセ情報の可能性が高い)。画伯とWEB番組で言われる(あまりの下手さに)。歌もダンスもオールマイティーにこなせる。
 ーー……と、こんな感じだろうか。
 ふぅ、とため息をついたは早く寝なければとPCの電源を落とし、明日の面接に備えることにした。

 その面接よりもMEZZO"二人の問題のほうが大きいことになるとは、まだ知らないーー。




 バッタリと廊下で見られてしまったIDOLiSH7の二階堂大和に連れられ、は古びた小さな喫茶店にいた。自分の行きつけなんだと笑って言い、まずはお互いに自己紹介をした。雑談もした。歳が近いということ、お酒を飲むということ、それから今日が“ハジメマシテ”じゃないということ。再会できて嬉しいです。頭を下げれば、「おいおい、またおでこぶつけるぞー?」と止められる。

「……もっと気楽に生きてみなよってこと。あんた、自分に自信がないんだろ?」

 図星だ。二度しか会っていないのにここまで人間を分析してしまうだなんて。目を伏せた彼女に、「行動までも似てるな」と消え入る声で言う。ハッとして大和を見るの視線を感じ「何でもない」とすぐに入れ、話題を戻した。環は素直でいい子なんだと。彼らは心からを嫌っているわけではないと。だから、MEZZO"のマネージャーをすぐには辞めないでほしいと。

「や、大和さん……あ、あの……」

 ぶつぶつとしゃべるだけで自分の思っていることを言葉にしないに、大和は懐かしむように苦笑した。

「行動までもーー昔の俺、そっくりそのままだ」
「え……?」
「いや……なんでもない。今日はここまで。続きはまた後日ということで」

 後日って時間を作れるほどIDOLiSH7は暇なんてないんじゃ……、と口にする前に彼は名刺を取り出せば、テーブルに備えられていたボールペンで文字を綴っていった。アルファベットと数字で出来たそれは、ラビチャのIDのようだ。

「はいよ。これ、俺の連絡先な。MEZZO"のマネージャーにもなるんだろうし、色々と知っておいて損はないだろうさ」
「あ、ありがとうございまーー」
「ほら、早く……そうだな……五分以内に登録しないと、タマとソウに言いつけるぞー。仕事に行きたがらないって」
「あ、まって、待ってください! いまっ、今すぐ登録しますからっ!!」

 慌てたはバッグからスマートフォンを取り出すも、すべって床に落としてしまった。よりにもよって大和の足元に。ごめんなさい、ごめんなさい、失礼しますとテーブルの下に潜り込めばはたと大和の吸い込まれそうな瞳が近くにあった。

「ハッ……わわわっ、や、大和さ……っ!」
「くくっ……ジョーダン。冗談だって。お兄さん、女の子にそこまで意地悪しないから」

 ぷに。
 大和は人差し指を彼女の柔らかそうな頬をつつき、自分の足元に転がっているスマートフォンを拾って持ち主に返した。


 その日の晩、新着のメッセージが入ったとラビチャのポップアップ画面が入った。「また今度、話の続きをしよう」、と大和からの連絡だった。
《3話へ続く》

>>2018/05/31
「紫陽花」でもある喫茶店でのお話回。追加情報もありますね。