あいつの動向が知りたい。
ただのラビチャじゃ駄目だ。心配されないように嘘ばかりつかれちまう。だったら……。俺にも考えがある。
「タマ、ちょっといいか?」
「ん? なに、ヤマさん。俺、王様プリン食うのに忙しいんだけど……」
「その王様プリンが二倍になったら……?」
「えっ?! ヤマさん、それマジ??」
ーー作戦・その一。タマを雇ってあいつを監視する。タマを動かすなんざ簡単だ。
「うん、マジのマジ。ほら、王様プリン。イチゴ味もあるぞー」
近くのコンビニで買ってきたばかりの王様プリンを袋ごとタマにやれば、タマは袋をガバッと開けてガン見する。それが間違いなく王様プリンだと分かればガッツポーズをした。
「やった。んで、ヤマさんは俺に何してほしいの?」
「なーに。簡単さ。あんたのところマネージャーの様子をラビチャでしょっちゅう教えてほしい」
「は? なにそれ。ヤマさん、ストーカー?」
「ストーカーじゃないぞー。お兄さん、純粋に
ちゃんが心配なだけ」
「ふーん? ま、いっけど。しょっちゅうってどんくらい?」
「あれしたとかこれしたとか……特に定義はないけど、そうだな……
ちゃんが行動したらにしよう。車運転してるとかご飯食べてるとか。あー、もう何でもいいから」
「りょーかい」
ということで、タマを雇った俺の財布は幾分か軽くなった代わりに、
を間接的に監視することに成功した。タマは律儀なもんで、本当に俺の言った通り毎回ラビチャを送ってきた。さすがは若者。写真付きだ。
『
、メシ食ってる』11:15
ーーあれまあ、ほっぺたにご飯粒が付けちゃって。かわいいなあ。
『
、こけた』11:48
ーーおいおい、パンツ見えそうだぞ?! お兄さんちょっと興奮しちゃうかも? タマには刺激が強いか? だからちょっとブレてんのか?
『
、寝てる』13:07
ーー幸せそうな顔してんな。こっちまで眠くなる。
『
、楽屋で俺たちとお菓子食う』15:15
ーー右手にシュークリーム、左手にはかりんとう?! 洋菓子と和菓子のコラボって……まさか、あのテーブルに並んだお菓子全部食べる気じゃねえだろうな?!
『
にバレた。怒ってる』15:25
ーー怒った顔もかわいいな。後ろでソウが笑ってる。
これも保存っと。
笑い過ぎてのどが渇いた俺は、テーブルの上にある差し入れのウーロン茶をコップに注いで飲んだ。ついでにカカオ成分の高いチョコレートをひとつ口の中へ放り込めば、廊下が何やら騒がしい。「待てよ、落ち着けって!」「お、落ち着いていられません〜〜!!」「ぼ、僕も環くんと同意見だよ。落ち着いて!」「本人に直接確かめます!!」「いや、それは、ダメだって!」ーー間違いない。あいつらだ。声が近くなっていってる。そういや、今日は同じところだったんだっけ。いつも確認してから外出するってのに忘れてたな。
ドンドンドンドン! 激しいノック音の後、俺が返事をする間もなく、息を切らしたターゲットは俺の前にやってくる。
「や、大和さ……んっ!!」
うわー、ヤバイ。
お嬢さん、激おこだ。顔を真っ赤にしてテーブルをバンッと叩いた。
「環くんを王様プリンで釣って恥ずかしくないんですか?! もっと高級な王様プリンDXにしたらいいのに!」
ーーそっちかー!
ま、今回は実験だったからな。それは成功した時の報酬だったんだ。タマには後で買ってやらないとな。にしても、
ちゃんのそのズレた感性、俺は好きだぜ?
「じゃあ、
ちゃんには俺から……はい、目閉じて口を開けてー」
「ん? これでいいですか?」
「うん、そう。まだ目は開けるなよー?」
本当は口の中に残ってるこのチョコレートを口移しであげたいんだけどな。まだそこまでの仲じゃないし、そんな仲になってしまったら彼女に迷惑をかけてしまう。俺はさっき手に取ったものと同じチョコレートの包み紙を剥がし、小さな口にそっと入れた。
《終》