俺は十龍之介。職業は、一応アイドルをやらせてもらってる。八乙女社長の方針でセクシー担当なのが未だに戸惑うこともあるけれど、これも仕事だと思って割り切ることにした。
だけど小さい頃から知っている彼女の前では「エロエロビースト」にはなれなくてーー……。
仕事が一段落した午後一時過ぎ。俺たちTRIGGERは着替えを終え、楽屋で一休みしていた。
今日はこれで終わりだ。天はこの後も撮影があるようだけど。楽は「これでも飲んで次も行ってこい」と天にりんごジュースを渡せば、「余計なお世話」と言い返すもフッと笑った。
「そういや、龍もこの後オフだったな?」
「うん、俺もオフだよ。この後はーー」
ーー幼馴染でもあり、最近想いを告げて恋人となった
と会う約束をしているんだ。
と言ってしまいたかったけど、恥ずかしさもあってか「人と会う約束をしてるんだ」とはぐらかした。彼女とは外で待ち合わせだ。鉢合わせすることもないし、彼女がここに来るわけーー……。
「お、お疲れさまですっ! 八乙女さん、九条さん!」
……来ちゃったのね。
まあ、うん、そうだよね。MEZZO"のマネージャーだからね。挨拶しないとって思ったんだろう。彼女はにこにこ顔で俺の相方たちの名を呼べば、彼らは彼女に向き合った。
「ああ、お疲れ、
」
「その格好……ふーん? 今日はプライベートで来たんだ?」
「あ……えっと……」
困った顔で俺をじっと見る
。そんな可愛い顔されちゃ、俺だって黙ったままではいられないよ。龍、とか細い声が俺の耳に届いたのと同時に、バッグを持って
の隣に移動した。
「ごめんね。言うタイミングが分からなかったから……。俺、彼女とーー
と付き合ってるんだ」
アイドルなのに恋人がいるって、怒られちゃうよね。天からは大ブーイングなんだろうな。それさえも受け止めよう。
不安げな表情になった
に「大丈夫だから」と手をつなぐ。二人は悪い人ではないから、きっと、大丈夫。
口を噤んだ天は楽を一瞥する。発言の権利をリーダーに譲るとでも言いたげに。
「龍……」
重みのある楽の言葉に身構えてしまう。ひと呼吸置いた後、楽は再び口を開いた。
「よかったな!!」
「……へ?」
「ずっと好きだったんだろう?」
「ど、どうしてそれを……」
「昔話してる時の顔が、なあ?」
「うん、そうだね。鈍い楽でも分かるよ」
「んだと、このガキ」
「ボクの方が気付くの早かったんだけど?」
「まぁまぁ、二人とも……」
胸をなでおろした俺は
と絡めた手をぎゅっと握り直す。
そろそろ行こうか。そう呟けば、
はこくりと頷いた。
「気をつけて行ってこいよ!」
「……外に出てもTRIGGERっていうことは忘れないで」
楽が手を振り、天は優しく忠告をする。二人の温かい気持ちを受け止め、俺たちは楽屋を後にした。
今日はワンコインランチを食べに近くの居酒屋さんに向かったんだ。「海鮮丼が美味しかったから俺と一緒に食べに行きたかった」っていう理由で。個室に通されて十数分、丼にイクラやお魚がどんと乗ったそれが俺たちの目の前にやって来た。
キラキラと目を輝かせる
の頭をぽんぽんとすれば、「何よ〜!」と怒られてしまった。
「
が可愛かったから」
「何か、妹扱いされてる感じがした……」
「そういうのじゃないよ」
女性として君の仕草に惚れ惚れしたんだ。小声で言えば、
はますます「何よ! もう!」と顔を真っ赤にさせた。
「そういうのが可愛いんだって」
「む〜! 龍ってエロエロビーストじゃないよね。ジミジミテンネンエロビーストだよね!」
地味で天然でエロいってこと?
そんなことないと思うんだけどな。苦笑すればグサリと俺の頬を人差し指で突く。
「そんなことある!」
そう言い張るものだから、俺もちょっとばかりムキになって“仕事モード”を入れる。前髪をかきあげて身を乗り出し、
の顎を捕らえて上を向かせた。
「お魚さんたちをいただく前に、
をいただこうかな」
「え、あ……え??」
「ほら、早くしろよ。舌を出すんだ。ねっとり絡みとってやる」
「あ、あっ、ま、待って……!」
「駄目だ。待たない」
「んん〜〜っ!」
恥ずかしがって目も口も思いっきり閉じる姿も愛らしくて。もうこれでいいだろう。俺は仕事モードをオフにして、彼女の頬にちゅっ、と触れるくらいのキスをした。
「ごめん。からかい過ぎちゃったね」
「馬鹿……!」
涙目で訴える
に、よしよしと宥めれば「馬鹿馬鹿!」と言いながらイクラにがっつき始めた。
「……続きは夜に、ね?」
「っ!? ゴ、ゴホンッッ!!」
《終》