平凡アイドル★ さん<番外編>


 ーー平凡アイドル育成計画書。
 それは、ツクモプロダクション・月雲了が単なる暇つぶし程度に作成していた極秘の計画書である。今としては珍しく、その計画書・原本はPCで作られてはおらず全て彼による手書きだ。と言っても、A4用紙にカラーペンを時折交えたなぐり書きだが。
 勿論、この計画書を使うつもりだなんてハナから無かった。遊び相手の彼との話のネタで終わる予定でいた。それがだ。ほろ酔いの百が、これまた同じくほろ酔いの月雲了に「いけるよ〜、それ〜〜!」と乗せてしまったものだから彼のやる気スイッチが押されたのだ。遊びが本物になった出来事であるーー。




 十ヶ月後。
 平凡アイドルが「アイドルと並んではいけない」とのことで、上手くなりすぎるのを抑えたこのところ。いよいよ、ツクモプロダクションからマスコミ各社向けに正式な発表があった。「平凡アイドル★、メジャーデビュー!」と。
 都内某所。心臓がバクバクのは着替えた衣装を見ては余計に緊張していた。

「ちょっと、何この衣装!!」
「うん? 何って……単なる衣装だけど?」
「いやいやいや! 平凡アイドルなんじゃなかったの?! 衣装、豪華すぎだから!」

 そうなのだ。平凡アイドルをうたっているくせに、衣装だけが平々凡々ではないじゃないか。ふわっふわの膝上スカートに、パフスリーブのトップス。リボンとフリル、レースをふんだんに使った「アイドルらしい」衣装。髪は耳上のツインテールに、こちらにもリボンのおまけ付き。
 恥ずかしくて死にそう。が顔を真っ赤にしてうずくまれば、控室にちょうど来た百は呆然と立ち尽くす。

……っ!」
「やぁぁぁあぁぁ! も、百! 恥ずかしいから見ないでえぇ……」

 床に額を付けて、これ以上誰にも見せないぞとは更にうずくまる。だが、それもすぐに解かれてしまう。気を取り戻した百がにゆっくり近づき後ろから抱きしめた。そのまま体を起こし、自らの胸の中に押し込める。

「……可愛い」
「可愛くなんて……!」
「ううん、可愛い。とっても可愛いよ、。だから、ねーー……」

 そっと彼女から離れれば百は両方の手をパーにした後、中指と薬指を折り曲げてそのまま頭の横に持っていった。

「ねぇ、。こうやって、こう」
「……こ、こう?」
「うん、そう。でね、こう言うんだ。“にっこにっこにー!”って」
「ん? “にっこにっこにー!”」
「ぐはぁっっ!! 鼻血ものだよ! モモちゃん、貧血で倒れちゃう!」
「ナギくんみたいなこと言わないの! って、本当に倒れるなああ!」

 百は親指を立てて「グッジョブ!」と鼻血をだらだらと出しながらも笑う。そこに、百・救援隊でもあるRe:valeの千が扉を蹴飛ばして入ってきた。

「どうした? 何があった!?」
「あ、あの……それが……」

 千の前に出るの姿をまじまじと見た千は目が点になる。

ちゃん、僕にもやって見せてよ。モモにやったんでしょ、アレ」

 何だよ、お前らは。やっぱり、某スクールアイドルの黒髪ツインテールだというのかね。薄々感じながらも、は言われるがままにやってみせる。

「“にっこにっこにー”」
「ぶはっ……! ちょっと僕もヤバイかも……」
「千斗まで倒れないで!!」

 百の隣に仲良く倒れ込む千。手にしていた紙袋から大量のお手製ちゃん応援うちわが散らばった。


 控室で渡されたあの衣装は、実はRe:valeの二人を驚かせるための月雲了の作戦だったようだ。二人がHPゼロの状態になっている間に本当の衣装に着替えたは、控室に戻ることなくステージ裏に通された。
 そして、この時が来たーー。
 会場が暗くなるのと同時に、ファンシーでメルヘンな音楽が流れる。数秒後、パアァッとカラフルな色のライトに包まれ、は足を震わせながらもステージに立った。
 平凡アイドル・。期間限定でツクモプロダクションからデビューします!
《終》

>>2018/04/24
一日で勢いで書き上げました。百連載18話の暗い話をひっくり返したくてギャグ路線になりました。