平凡アイドル★ に<番外編>


 運転席の窓が開けば、運転手が顔を出す。

「ったく、何で俺が運転しなきゃなんねえんだよ」
「運転できるのがトウマしかいないからねー」
「あの二人も出来るだろうが!」
「う〜ん。彼らはちょっと……ね? トウマならきちんとやってくれるだろうし?」
「ま、まぁな」
「若葉マーク、未だにつけてるトウマくんだけどね……ぷっ」
「わ、笑うな! 割り込みされるの、こ、ここ、怖えんだよ……」

 この赤髪の人はもしや、ZOOLの狗丸トウマではーー。
 反社会的な言動、反抗的な態度がいわば売りの彼ら。イメージとしては高校生のおチビさんは原付バイクを乗り回して、高校卒業組の三人はセダンや高級車を改造してけたたましく音を上げて走っているのを思い浮かべていた。それが、今、脆くも崩れ去った。本人の言葉で。
 高校卒業組は全員運転免許は取得してはいるものの、まともに運転できるのが狗丸トウマだけだと? しかも、その彼は現代っ子が好んで乗るような軽自動車。若葉マークのおまけ付き。「割り込みされるのが怖いから一年経っても外さない」と。

「ああっ、もう! イメージガタ崩れ!!」
「ああっ!? 喧嘩売ってんのかテメエ!」
「私なんて免許取りたてだったのに、十人乗りの送迎車運転してたからね!! 今はもうゴールド免許だし!!」
「す、すっげぇえぇえぇ!!! マジかよ! ……姉御!!」

 ちょっと熱くなっちゃってどうでもいいこと喋ってしまったけど、彼は目をキラキラさせて「姉御」と叫んだ。張り切った彼はがトランクに荷物を置くと「安全運転で行くから心配すんな」と走らせていった。

「月雲さん、私、姉御ってさ……」
「面白くなりそうだねー」
「棒読みだね! って、あっ! トウマくん、信号無視……」
「ああ、アレ、いつものことだから」
「あなたはまずアイドル教育よりも、運転の教育をしようね!」
「えーー? 僕、事務所の社長だよ〜? 教習所の教官じゃないんだけど」
「彼の車に乗ったら、私たち間違いなく怪我はするから!!」




「……ということがあったんだけど!!」

 帰宅するなり、はソファーで寝転がっていた百を問い詰めた。

「ごめんごめん〜〜。をびっくりさせたくてさ!」
「あーもういろいろとびっくりしました。月雲了がいきなり唇触ってくるし、軽自動車に若葉マーク付けた狗丸トウマがやってくるし!」
「ちょっと待って。了さん、何て?」
「だから、いきなり唇触ってきたんだってば! あの変態!」
「唇……触ってきた……? スカウトするだけって言っておきながら〜〜! オレのに手出したら激おこぷんぷん丸なんだからねって言ったのに!」
「百、それ……ちょっと古い、かも」
「へ? オレたち、世代でしょ?」
「まぁ、そうなんだけどね……」

 百は頬を膨らませて、両手で握り拳を作って頭の上に持ってきては「ぷんぷん丸だぞ〜〜」と言っている。怒る相手はこの場にはいないが、彼のその行動がなんとも可愛らしいのでツッコミはいれなかった。

「……てことは、了さん、オレとの約束を破ちゃったわけだ」

 シメシメ。先ほどまで怒っていたというのに、百の表情はすぐに悪巧みの顔へと変わった。二人はいつの間にそんな約束とやらをしていたのだろう。不思議がるに、百は両手を腰にやってエッヘンとふんぞり返る。

「スカウトの条件を出したんだ。了さんがに直接手を出したら……ももりん一年分自宅に送れってね!!」
「百の頭の中って、いつもももりん畑だな!!」
「ありがと♪」
「褒めてない!! 重たい思いしてももりん買ってきた私がすごく馬鹿馬鹿しい……」

 あの後、トウマは無事に自宅へと食料品を届けたようで。が帰宅すれば、冷蔵庫にはすでに食料品がおさまっていた。大量の桃とりんごのスパークリングはストック用引き出しにきっちりと並べられていた。片付けが苦手な百ではあるが、ももりんだけは違うのだ。

「ももりん、私も飲むからね!」
「もちろん! 了さんに言ってあるから。オレとで一年分、ってね」
「さすが、百。ちゃっかりしてる〜〜」
「それほどでも〜〜」
「いやーん、今の、すっごい似てた! もういっかい!」
「ブリブリ〜〜ブリブリ〜〜!」

 某幼稚園児アニメのモノマネをした百はのリクエストに答えるべく、サッと立ち上がってはお尻を突き出して左右に動き出した。パンツを脱いではいないが。

「いやあああ! それはダメ、アイドルのイメージが! いや、似てるけどさ……ぶっ、ふははははっ!!」
《続》

>>2018/04/24
百にやらせて後悔はしていない!(楽しんでいただけたら幸いです)