※裏もまったくない月雲了がただ単に夢主さんを「平凡アイドル」としてスカウトした続編のifギャグ話。
※了さんとZOOLとRe:valeがキャラ崩壊してます。
それは、ある日の夕方だった。
近所のスーパーの特売火曜市で食料品を買い込んだ
は、その荷物のあまりの重さに疲れてしまい道端で一休みをしていた。
カゴにすっぽりと入るマイバッグを持っていったにもかかわらず全ての食料品が入りきらず、追加でレジ袋を購入するハメになった。両手は重量感たっぷりのマイバッグとレジ袋。見事なまでのこの大荷物に、やっぱり彼に車を借りてくればよかったと後悔した。車を使うのなら自分が送り迎えをすればいいだけの話なのだから。
自宅まではあと数百メートルと言ったところか。もうひと踏ん張りなのに、手と足が言うことを聞いてくれない。
「はぁ……こんな日に限ってももりんをセールにするスーパーが悪いんだぞー!」
百が大好きな桃とりんごのスパークリング。今日はそれがお買い得だったのだ。肉や魚よりもももりんの方が袋の割合を占めているーーというよりも、マイバッグいっぱいにももりんが詰まっている。隙間にストック用の調味料を入れている程度だ。六、七キロはあるのでは。セールに踊らされてしまった。
「フッ……お手伝い致しましょうか、お嬢さん」
誰だ、見ず知らずのやつにこんなお優しい声をかけてくれるだなんて!
は声がした方を向けば、そこには眼鏡をかけたスーツ姿の細身の男性が立っていた。
「い、いえ……お気持ちだけ。ありがとうございます」
「そんな遠慮しなくていいんだよ〜。キミ、モモのアレでしょ? ……お・よ・め・さ・ん♪」
「なっ?! どうしてそれを……?」
「ん〜〜? ほ〜んとたまたま何だけどね、モモと一緒にあそこのマンションから出てくるのが見えたから」
男性が指差した方を見れば、確かにそこは春原百瀬と
の自宅マンションだ。誰なんだ、やつは。ストーカーか。
がギロリと睨めば「怖い顔しないでよ〜」と肩をビシバシと叩く。
「僕はね、ツクモプロダクションの社長・月雲了。一応、モモの知り合いなんだよー?」
「は、はぁ……」
百は交友関係が広いからなあ。
は納得するも、聞き覚えのあった名前が引っかかる。ツクモプロダクション、月雲了ーーそうだ、今話題沸騰中の新人アイドルグループ「ZOOL」が所属している事務所だ。そして、百が「要注意人物」と警戒している人間。
身構える
に了は苦笑いしながらも、胸元のポケットから名刺を取り出して彼女に渡す。
「僕ね、キミをスカウトしに来たんだ」
「は、はいっ?!」
「今考えてるアイドルがあってね。それのイメージにピッタリなんだよー! だからさ、僕と契約してアイドルになってよ」
「お断りします」
「そんなこと言わないでさー。僕と契約してアイドル少女になってよ!」
「とあるアニメのあのキャラクターみたいな喋り方、やめてください」
「あっ、気付いた? 今ハマっててさー、DVD全巻購入して見てるところなんだよー」
「そんな情報いらんわ!!」
冷たいんだから、と了は呟きながらも両手を頭につけて「耳」を作り、またあのセリフを言い続ける。
「僕と契約してアイドル少女にーー」
「やですよ。リョウベェと契約したら上手いことやられるに決まってますし」
そうなのだ。あの魔法少女アニメは皆がハッピーな話ではなかった。女の子たちを言葉巧みに誘い込んで都合のいいように使ったのだ、可愛い顔をした白い悪魔は。そのネタを使ってきたのだから、リョウベェならぬ月雲了は何かを企んでいるのではと
は断りを入れる。
「いやいや、あのね、こうみえて僕、ピュアピュアなんだよー?」
「嘘だぁ! アプリ第3部で散々やっちゃってるくせに!」
「今アプリの話をしたらダメでしょー? バッテンだよ?」
もう知るか! タブーだろうが何だろうが言いたい放題言ってやるぞ!
が意気込んだのも束の間、了は口角を上げて笑い親指で彼女の唇をなぞる。
「ん……っ?!」
「ダメだよ、
ちゃん。これ以上反抗したら、話が進まないから。もう決まっちゃってるんだよ。キミは僕と契約して平凡アイドルになるって。僕が平々凡々にしかない魅力を出して、キミをプロデュースする。大丈夫……なーんにも怖いことなんてない。僕に従っていればいいだけ。簡単でしょ?」
「……うちのが許すとは思えませんよ?」
「ん? なーーんだ、そのことなら心配無用! ちゃーんと許可取ってあるよ?」
ガサゴソとカバンから書類入れを出し、
に一枚の紙を見せつける。
「『春原
を平凡アイドルとしてツクモプロダクションに所属することを認めます……春原百瀬』って、これどういうことじゃあああ!」
「どういうことって、そーいうこと。モモくんの直筆サインでしょ?」
「嘘でしょ……」
「ホントだってばー、もう。とりあえず、一度、僕の事務所に行こうよ。あっ、その荷物は今やってきた車に積んで。家の玄関前に置いておくから」
そう言うなり、黒の軽自動車は彼女たちの横で止まった。
《続》