との出逢いは中学校の始業式。真新しい制服が少しばかり大きく感じる新1年生の中にいた。退屈だなと春原百瀬はふと右側を見た時、ある女の子と目が合った。彼女は小声で「暇だね」と笑って言った。それが
だった――。
百とは親しい間柄になった。クラスが同じなのは勿論のこと、席がいつも近かった。帰る方向も同じで、何より、話が合った。互いに気が楽だった。
クラス替えは毎年あったが、全部同じ。「運命か!」と笑いあったものだ。
来年度は新しい制服に袖を通すようになる。そこでもまた、彼女とは同じ高校なのだが、百は考えていた。ここまで仲が良いのに、それ以上の関係になるのはどうなのだろうか。彼自信、
をとても気に入っている。いつまでもこの関係を……否、違う。誰にも渡したくはない、が正しい。奪われたくない。自分以外の人間が彼女の隣で笑っているのを想像したくなんてない。
ーー彼女が好きなんだ……。恋をしているんだ。
答えが分かれば、次することはひとつしかない。簡単なことだ。「好き」と2文字を言えばいいだけだ。だが、それがいかに難しいことかも分かってはいた。振られたら元の関係には戻れない。
さて、告白すべきかしないべきか。
悩んでいれば、クラスメイトの会話が微かに聞こえてきた。俺さ、
が気になるんだよな。親切だし、優しいしな。
ぼやぼやとしていられなかった。
彼らは3年生。再来月からは高校へと進学する。それは、今のクラスメイトとの別れを意味するわけで。
百は放課後にしようと意を決する。
「
、
……! 今日の夕方4時半、あの桜の木の下に来れる?」
「うん、行けるけど、どうしたの?」
「じゃ、じゃあ、来てよ! ぜったいに!!」
「あ、ちょっと、百……!」
彼女が呼び止めたことにも気づかないまま、百は終業のチャイムが鳴るのと同時に学校を出た。桜の木に向かう前に、寄るところがあるのだーー。
待ち合わせの桜の木に行けば、既に
が木にもたれかかって待っている。
「ご、ごめん……! 待たせちゃって……」
「大丈夫だよ。ちょうど4時半だから」
沈黙が流れる。彼女の鼻先は少し赤くなっている。マフラーと手袋はしているものの、待たせてしまったせいか体が冷え、寒そうにしている。百は自分が巻いていた紺色とピンク色のストライブ模様のマフラーを、
のしているマフラーの上から更に巻きつける。
「ほら、これであったかくなった」
それから、自分がかぶっていたニット帽をかぶせてあげれば完璧だ。
百はもっとあたたかくしようと、手袋を外して
の両頬を包み込む。
「どう? モモちゃんのぬくもり〜」
「ふふっ……あったかいね。百がいたら寒い冬でも大丈夫そうだよ」
「暖かい陽気が気持ちが良い春も、ムシっとした暑い夏も、冷たい風が出てくる秋もーーずっと、オレがいるよ?」
「うん……? ずっといてくれるのは嬉しいけど、百にもいつかは恋人が出来るんじゃーー」
ドサッ。百は
を抱き締めた。これ以上喋るなと言わんばかりに。
「
、オレは
が好きなんだ……!」
それは、桜の木の下で、百の精一杯の告白ーー……。
さくら色に染めた頬にちゅっとキスをした百は彼女から離れ、リュックを開ける。先ほど急いで買いに行った物の紙袋を渡した。
「えっ? 何で王様プリン……?」
「オレの好きなもの! 差し入れ?」
「ぷっ……。モモ、最高だね。これからもずっとよろしくね」
いつまでも、いつまでも、ずっと一緒に。百は桜の木の下で、この幸せが続きますようにと願わずにはいられなかった。
《終》