桜の木の下で君に告げる<18>


※前半R15、後半R18表現あります。


 スマートフォンが暗闇の中で鳴り響く。それに呼ばれた持ち主が「はいはーい」と隣の部屋からやって来れば、ディスプレイに出ていた文字に盛大に腹を立てて舌打ちをした。
 
「許してあげないよ……。僕の邪魔をするヤツは皆、皆皆皆!!」



 春原百瀬を襲った男衆は逮捕され、無事に解決したと思われた。半月が経過したが、これといって変わったことは起こらない。百はこれまで通りにRe:valeの仕事をこなし、もまたツクモプロダクション所属の平凡アイドルとして練習に励んでいた。
 だが、確実に、ヤツらが次のターゲットへと歩み寄っていた。


 事の発端は、物がなくなってしまったということだった。それも、財布やスマートフォンといった貴重品ではなく、タオルや捨てようとしていた使用済みのティッシュといったものが。それが三日連続で続き、さすがに不審に思ったはわざとタオル類をバッグの中に入れなかった。すると、その日は何もなくなることはなかった。
 その翌日。今度はバッグの中ではなく、ベランダに干していた彼女の衣服がなくなった。衣服がなくなったのはその日だけで、その次の日からは下着が毎回なくなるのだ。風で飛ばされたのならまだしも、明らかに彼女のものだけが狙われている。マンションの上の方に住んでいるというのに。警戒したが部屋干しに変えてからは、それはピタリと止んだ。
 ーー変だ。彼女の物だけが消えていくなんて。誰かが意図的にしているとしか考えられない。
 百には「洗濯物なくなっちゃったんだよね〜」と軽くしか言ってはいなかった。だがこれは、きちんと伝えた方がいいのかもしれない。心配をかけてしまうが、伝えないほうが返って心配をかけるだろうから。は百にラビチャで「最近、変なことが起きていて困ってる」と打っては送信ボタンを押した。“名前”をきちんと確認しないまま。


 六日後。
 は月雲社長に呼ばれてレッスン室に来ていた。ソファーに二人してただただ座っているだけで、一向に先生は現れない。何か勘違いをしているのでは、とは社長と向き合う。

「ボイトレって、今日はしないはずじゃ……っ!?」

 が喋るのと同時に、月雲了は彼女の両肩を掴んで押し倒す。クツクツと笑う彼は馬乗りになり、の頬をなぞる。

「ボイトレはしないよ〜? 今日は僕と“トレーニング”するんだ」
「な、なに言って……っ!?」

 胸ポケットをまさぐるヤツは茶色の小瓶をわざとらしくに見せつける。

「“コレ”に堪えるトレーニングを、ね?」

 コルク栓を外し勢い良く自らの口へ入れれば、の顎を固定する。じたばたと抵抗するも大の男に叶うはずもない。月雲了はそのままの口内へと舌をねじ込み、液体を流し込んだ。
 喉を通っていく液体はなんだか熱くて、それでいて体中がじんわりと心地の良い汗が流れていく。その頃には抵抗することを忘れ、変な快感に身を委ねるしか出来なかった。

「っ、はぁっ……いい子。よく飲めました」

 口の端から溢れる唾液を、月雲了は舌先で舐めとる。愛している人はたった一人だというのに、は触れられて嫌な気持ちにはなれない。

「んぅ……解毒……解毒剤をください、は、早くっ……!」
「馬鹿なこと言ったらダメだよー? はかり間違えてはいけない。は今、僕に狙われているんだ。そして、これは単なる序章にすぎない。本番はこれからだよ……」
「なに、言って……る……の」
「ほぅら、だんだん眠ーくなる、眠くなる……」

 月雲了の言葉通り、の意識はそこで途絶える。事が思うように動き、彼は満足げに笑う。そこに、部屋の隅で息を潜めていた若い男が近寄ってきた。

「……あんたってヤツは……っ!」
「“最低だよ”って言うつもりかい、トウマ。でもね、キミもそうだよ。僕の手助けをするのだから」
「くっ……!」

 トウマは静かに目を閉じているを軽々と横抱きにし、公にはしていない通路に通じる扉へと向かっていく。月雲了はトウマの背を見ながらもニヤリと笑うだけだった。

「ごめん、姉さん……ごめん……っ!」



 彼女の目が再び開いた時、それは、悪夢の始まりを告げたーー。 

 自分の状況を疑った。
 ひんやりする背中に、スースーとする足。おそるおそる下を見やれば、自分はベッドに仰向けの状態で縛り付けられていた。衣服はところどころ破かれており、意味を成していない。

「気が付いたかお嬢ちゃん……?」
「これから俺たちとイイコトしようぜ?」

 その言葉を皮切りに、複数人の男たちがを囲むように集まってきた。手にはハサミを持って。

「よおし。ビデオの準備はいいぜ〜」
「本番、スタート!」
「なあに……いい子にしてたら殺しはしねえよ」
「や、やめ……っ!」

 男たちは一斉に、自らの好きなように彼女の衣服を裂いていく。

「や、やだぁ……! やめなさ、い……離して!」

 彼女の叫びが男に届くはずもなく、はさみの数が増えていく。ひら、ひら、と無残なまでの布切れが下に散らばっていく。
 一人の男がの嫌がる声にひどく反応して馬乗りになれば、大きくなった下半身のソレを彼女の太ももに擦り付ける。次いで一人、ズボンを脱ぎ捨てて彼女の口に無理矢理押し込んだ。喉奥に来るソレには強い吐き気に襲われるものの、男は出したり引いたりを繰り返す。
 はこれが夢だったらいいのにと何度も思った。知らない男に体を見られてむちゃくちゃにされている。自分ではどうすることも出来ない以上、助けに来てもらうしか方法はない。だが、助けに来た人間にも、この姿を見られてしまう。最愛の人が来てくれたとしてもーー。最悪だ。いっそのこと、消えてなくなってしまいたい。

《19話へ続く》

>>2018/04/25
生ぬるいですが後半はR18にしているため隠してあります。