トウマと「お買い物デート」をした
は改めて思った。彼はZOOLの中で常識人でフツーだと。
大型ショッピングモールで
の行きたいところにとことん付き合い、洋服の試着時もふらふらと離れることなく傍で待っていた。昼食でたこ焼きかクレープかを悩んでいれば「どっちも買えばいいじゃねえか」と二人分をトウマ自らが買ってきた。食料品コーナーに立ち寄れば「本日特売日」の文字がうつりついつい買い込んでしまう
であったが、半分以上の荷物をトウマが持ち、百の迎えが来るまで待ってくれたのだ。
しかも、だ。トウマの悩みを聞くことが出来た。「ZOOLには仲間意識がない」と。彼は真剣に悩んでいた。その姿に
は心を打たれ、トウマの話を相槌をしながら親身に聞いた。自分の経験も交えながら出来る限りのアドバイスもした。すると、「あんた……姉さんみたい……」「
姉さんって呼んでもいいか?」とそっぽ向きながらも彼は言った。断る理由のない
は「もちろん!」とトウマの髪をぐしゃぐしゃに撫で回せば、彼は照れくさそうに「やめてくれよ姉さん」と返したのだーー。
「トウマくんっていいこなんだよ!」
は先ほどの出来事を順を追って説明すれば、上着のポケットから車の鍵を出してテーブルに置いた百はソファーにドカッと座り直す。買ってきた食料品を冷蔵庫に入れる
に聞こえるようにわざと大きな声で言う。
「何、その報告ー! モモちゃんショック〜! 嫉妬しちゃうぞ〜!」
足元に転がっていたクマのクッションをやって来た
目がけて投げれば、それはしっかりと受け止められてしまう。勝ち誇った笑みをする
は鼻歌を歌って百の横に座ると、腕に絡みつくようにぎゅっと抱きしめる。
「私は百しか興味がないから」
「ズッキュンって来たよ〜!
、もういっかい!」
「一度しか言わない〜」
「む〜〜!
のケチ〜!」
「ケチじゃないもん! そういうことは何回も言うものじゃないの」
「いいじゃんいいじゃん! オレは嬉しいけど? 愛を感じる!」
「じゃあ……百からも言ってほしいな。『
にしか興味ないんだ。
、愛してる』とか?」
「うわ……もしかして、それ、オレのマネ? 似っってない〜〜!」
「ツッコミどころはそこじゃない〜!」
顔を見合わせて大笑いする二人。幸せだ。こんなことで笑えるだなんて。百は
の額に口付けをして、彼女の頭にコツンと自らの頭を乗せた。「重い〜〜!」とジタバタされても知るもんか。
幸せを噛み締めていたいところではあったが、
はそろそろ本題に入る。
「あのね、百……彼、ZOOLの中で一番いい子かもしれない。近くで見ているとより感じるんだけどさ……あの子たち、怖い。特に大人ふたり組。一見常識人な感じの棗巳波が要注意。かなり毒を吐くね。しゃべりも上手い。人相占いが地味に当たってるのはすごいんだけど、それが逆に痛いところをついてくる」
「だよねー。Next Re:valeのゲストで呼んだ時、びっくりしたよ!」
八重歯を見せてくる百。
「百みたいに上手くスルーできれば問題ないんだけど、七瀬陸くんとか四葉環くんとか純粋でまっすぐな人ほどあの手は危ないかな。全員に教えたとして、全員が警戒した状態だと怪しまれるから……」
「よし、じゃあ、MCの三月と万能な一織にこっそりラビチャしとくよ」
心配そうな面持ちで百を見る。そうだ。月雲は、今、百をターゲットにしている。
「もちろん……こっちのスマホから、ね」
ポケットに入れているスマホではなく、巾着袋に忍ばせているスマホを手に取り、百はにかっと笑ってみせた。
ある日、
はツクモプロダクション内にあるレッスン室でボイストレーニングを行うためにやって来ていた。ド素人が今更こんなことをしてやっていけるのだろうか。ため息を漏らした
が廊下を歩いていれば、曲がり角から赤髪がちらりと見えた。トウマだ。互いの距離が近づくにつれ、緊張の面持ちが解けていく。声をかけようとする
に、トウマは人差し指で彼女の口をふさぐ。
「
姉さんーー」
ーー狙われてる。
口パクで告げるトウマは
の上着のポケットを指差し探るように伝える。おもむろに手を入れてまさぐれば、ボタンの大きさくらいの固い何かが掴めた。手の上で広げれば、それは明らかに自分のものではない。ーー盗聴器だ。GPS発信器も兼ね備えているかもしれない。
「コーヒー、飲み終わったろ? 捨てに行こうぜ」
二人はコーヒーなんて飲んでいない。彼は自然な流れで捨てさせようとしてくれているのだ。空き缶と一緒に並んだゴミ箱に、ポケットに入っているゴミを捨てるのは自然な行為だ。不自然ではない。念の為にとトウマは盗聴器を握り潰した。
「気をつけろよ姉さん。アイツは……何を考えているのか分からねえ。容赦のないヤツだ。仲間の俺らにも……」
「ト、トウマく……ん」
「ま、また……な、
姉さん」
「ありがとうトウマくん……あっ、ちょっと待って!」
そそくさと立ち去ろうとするトウマに
は女の勘とやらが働いたのか必死に引き止める。
「百からの連絡が返ってこないの……もしかして月雲社長と何か……知らない?」
どこか余所余所しい彼は首を横に振るだけだった。
《16話へ続く》