今から大事な話をするから聞いてほしい、と跪いている百ははっきりと告げた。こくりと頷く
を確認し、ひとまずはこいつを置いておくねと別珍素材のトレイの上に戻す。
「じゃあ、改めまして……。いろいろと
には言いたいことがあるよ? 何で別れなきゃいけなかったのとか、あの人誰とかさ。ラビチャだって送ったのに返してくれなかったし。こそこそユキとは連絡を取り合っていたようだし? オレのダーリンと浮気……?! って思っちゃったこともあった。……冗談なんだけどさ」
の表情がかたかったから。最後のは冗談だって。百は笑いながら続ける。
「でもさ、何となく、やっぱり分かっちゃうんだよ。
の考えることだもん。オレのためにって頑張ってくれて……。認めたくなかったんだ。
と離れ離れになることを。オレが不甲斐ないばっかりにこうなってしまった。だから、もう、こんな思いはしたくない。オレがハッピーでいるためには、なにより、
が必要なんだってこの3年間で思い知らされた。Re:valeも大事だけどね、
も大事。どっちも欠けたらオレじゃいられなくなる。覚悟が出来たんだ」
再びトレイの箱を手に取り、優しく開けた。中のそれを彼女の左手薬指にはめてやればいい具合におさまった。照明に反射して、ピンクダイヤモンドがより一層キラキラと輝いた。ほら、思ったとおり、似合うね。はにかむ
を百は穏やかに褒める。
「
、オレとこの先ずっとハッピーでいよう。結婚してください」
「っ……はいっ、よろこんで。ハッピーな毎日を過ごそうね、百……っ」
「もう〜、
ってばこの間から泣きすぎだってば」
立ち上がり親指の腹で涙を拭いてやればくすぐったそうにする。それにたまらなく愛おしさを感じ、抱きしめながら頭を撫でてやった。
ーー後日。世間はRe:valeの緊急記者会見の話でもちきりだった。彼の入院先がネットで噂にもなったし、別の日には女性と二人きりの目撃情報も上がった。
今の時期にするのはなかなか厳しいところもあるけれど、せざるを得ないだろうね。おかりんこと岡崎マネージャーは言った。Re:valeは男性アイドルグループだ。恋愛話をすると女性ファンからの反感が必ずある。非難の的になるのは
さんだよ、と。覚悟は出来ています。力強く言った百はこうして記者会見の場を設けた。
そして、その日がやって来たのだ。
上下が黒のスーツに白いワイシャツ。濃いピンクと紺色のストライプのネクタイを締め、ピアスは外す。用意されたイスに座れば、インタビュアーと対峙する。
どんなくだらない質問でも笑って返せる自信はあるし、嫌味な質問でも淡々と返せる余裕もある。
今日、告げることはハナから決まっている。ーーRe:valeをこれからもよろしくお願いしますということと、自分は最高にハッピーだということを。
記者会見は百の饒舌な熱弁により、感動に包まれてお開きになった。つられて泣く人もちらほらといるくらいだった。
岡崎事務所に帰ればティッシュを片手に泣きじゃくる
と、それを隣で見て笑いを堪えきれない相方と、胃薬をぶち撒けて掃除をするマネージャーがいたのだった。
「お、おかえり、百……ぐすっ……」
「わ、何であんなので泣くんだよ〜、
」
「だって……うぅっ……」
「要するに、“百がくさいセリフを言いまくってときめいて泣いてるの”、って」
「改めて言われると恥ずかしいんだけど……って、ちょっと待って! ユキ、どこ触ってんの!」
「どこって、
ちゃんの肩……?」
ぽんぽん、と彼女の肩を叩く千。
「それは見たらわかる……って、そうじゃなくて! 本当にユキと浮気してたの?!」
「そうね、って言ったらどうする?」
「とりあえず、ぶん殴る」
「暴力は良くないよ、モモ。まあ、冗談だからその必要はないよ」
「その手の冗談は勘弁してよ……」
「それだけ彼女のことが大事で、彼女のことになると何よりも一生懸命で余裕がなくなるってことね……よかったね、
ちゃん」
「うっ……ユキってばやっぱりイケメンだよ……!」
「くっく……何度でも言っていいよ?」
「ユキってイケメン! ジェントルメンだよ……!」
「……っ、もう! ちょっと、そこ! 私の目の前で夫婦漫才しない! ちょっと寂しくなる……」
「あ〜〜、もう!
ってば超超超超可愛い! さすがはオレの嫁〜!」
ーーいつまでも、笑いの絶えないハッピーな日々をおくれますように。百はこの幸せを噛み締めながら、
の唇に触れるくらいのキスを落とした。
《終》