桜の木の下で君に告げる<6>


 そう。二年半ーー……。
 時間というものは案外、あっという間に過ぎてしまうもので。
 あれからオレはもう歳を二つは重ねていた。オレだけの時が動いているわけじゃないから、周りも歳を重ねているけど。ユキだって、Re:valeだって。
 つまり、Re:valeはもうすぐ三周年なんだ。ツアーだって始まる。ありがたい話だよね。大きな会場で、たくさんの機材をフルに活用してくれて、オレ達をどう格好良く見せるか念入りに打ち合わせしてくれている。
 Re:valeの知名度は、今は、あの頃と違う。だいぶ知れ渡ってきたと思う。純粋に、嬉しい。インディーズの頃から知っているから。ユキの元相方・バンさんは未だに行方知らずだけど、きっと、いつか……戻ってきてくれる。姿を見せてくれる。そう信じてオレはあと二年、ステージに立ち続けるんだ。

を想い続けるのも、もうやめなくちゃ……。わかってるのに、本当はわかってるくせに!」

 イスにかけたボディバッグをまさぐる。
 あいつがーー手のひらサイズの精神安定グッズがなきゃダメだ。
 中に忍ばせてある薄汚れたくまのぬいぐるみキーホルダーをおもむろにカウンターテーブルに置く。グラスが音を立てて、氷がぶつかり合った。

「……1%でもある可能性を捨てきれないんだよ」

 首にピンク色のリボンを付けておめかししているくまの頭を指先で撫でて、グイッと一気にグラスの中身を飲み干す。
 ちょっとくらくらするし体が火照る。全身ドクドクいってる。ああ、気持ちがいいーー。

「オレさあ、マジでが好きなの。まだ好きなの。未練タラタラなの!」

 忘れられるもんか。
 何年前からの付き合いだって。青春時代真っ只中の、オレの“大好き”が溢れまくった相手なんだよ。大好きじゃ足りないんだ。
 Re:valeにオレがなるってなった時だって、応援してくれたじゃん。それなのに、どうして……?
 オレが邪魔になったってこと? 調度良かったってこと?
 あー、もう、わかんねーよ、
 例え、売れっ子になって毎日が死ぬほど忙しくなったとしても、との連絡を疎かにするつもりなんてなかったし。ちゃんとデートだってするつもりだった。アイドルでもーーアイドルだって人間なんだよ? 一人の女の子を好きになって愛して何が悪いの? 隠しきれなくなったら公表しちゃえばいいじゃん。楽観的に考えたらいけないの?
 なんだか、考えがまとまらなくなった。
 オレ、相当酔っちゃってるのかな。
 くまさんがーーくまのちゃんが泣いてるように見える……。

「あー、はいはい。わかったから。その辺にしておきなよ、モモ。飲み過ぎだ」

 ユキがオレからグラスを取り上げようとするけど、そうはさせない。

「えー、やだやだ! まだ飲むんだって! 飲まなきゃやっていけないんだってば!」

 飲んで気分良くなって、陽気になってさ。をずっと想っていたい。これっぽっちも忘れたくないんだ。
 マスターにおまかせでもう一杯頼むと、ユキは深い溜息をついた。
《7話へ続く》

>>2018/02/16
やっと現在編に突入です。