桜の木の下で君に告げる<3>


 Re:valeメジャーデビューから一年が経とうとしていた。
 つまり、それは、彼女がいなくなって一年ということで。オレは相方のユキを「慰め会」と称して飲みに誘った。

「じゃんじゃん飲んでいいぞ~ユキ! 今日はオレの奢りだからさ~」
「モモ、そんなに僕達贅沢できるほどじゃないんだけどな」
「まあまあ、そう言わずに~。今日は特別だからさ」
「ふーん?」

 グラスを手にするユキの手に見とれて注ぐのを忘れてしまい、デコピンをまともに食らってしまう。

「いたっ?!」
「お馬鹿さん。……いつものモモじゃないね。僕のこんな技に引っかかるだなんて」
「そうだね。バレバレなはずなのにまともに食らっちゃってさ、オレ」
「ま、たまにはいいんじゃない……? ぷっ……」

 ぷるぷると震えるユキ。もうツボっちゃったとか、もう、ツボが浅いんだから。こんな他愛のない話をずっと出来たらいいのに。ユキと。と――。
 ああ、もう!
 ことあるごとに、って、どうしてこんなにが頭の中に出てきちゃうかな?!
 あああー!! もう、ほんっっとに、もう!!

「モモ、声、駄々漏れ……っく、ふふ……」
「わっ?! マジで? ご、ごめん。あ、あのさ……」
「いいよ、わかってる。ちゃんのことだろう?」

 やっぱ、オレの相方ってイケメンだよ! ジェントルだよ! さすがだよ。

「オレ、未だに忘れらな……」
「キッパリ忘れられる女と付き合ってなかったってことでしょ。よっぽど大切な人だったんでしょ。だったら、自分から離したらいけないよ、モモ。離れていこうとしたら何が何でも引き留めないと。悪い手段を使ってでも。出逢いは一期一会なんだ。縁が切れてしまったらそれで終わりなんだよ。芸能界だってそうでしょ? モモは全てを失ったとしても、彼女を手に入れたいと思う? その覚悟はある?」

 震えが止まらない指。カタカタッと音を出すグラス。水滴が手を冷やしてくれても、胸を打つ心臓までは冷やしてはくれなかったーー。



 アラームのけたたましい音で目が覚める。時計の針はもう7を指していて、支度をしろとオレを布団から引きずり下ろした。
 いつも見るあの夢の中の彼女は笑っていて、それでいて顔がちょっと幼い。中学か高校かな。今じゃないのは確か。だって、今は、もう。
 どこで間違えちゃったのかなー? もう……。連絡もつかないし。ってかさ、いちいち男を連れて来なくてもいいって思うんだけどね! あんなユキみたいなイケメン連れて来んなよー!
 って……虚しいよ。
 今思えば、そのイケメン、目元とか髪のクセとかがどことなくに似ている気がする。
 長年の付き合いの勘だけど。
 実は親戚とかだったりして? ただのドッキリなんだよーって。いや、好都合過ぎるか。
 期待なんてしたらいけないのに、結局、オレはまだ彼女の私物を捨てられないでいる。ユキに言われた“覚悟”が曖昧なまま。
《4話へ続く》

>>2018/02/08
百は未練タラタラで嫉妬もするし……という勝手なイメージ。