桜の木の下で君に告げる<2>


 ――ねぇ、百。どうして私と付き合ったの? 私ね聞いちゃったんだよね。百にはずっと好きだった人がいたって話。

 気になっていたことを好きな相手に告げるのはなかなか勇気がいるもので。
 当時の私は心のどこかでずっとモヤモヤしていた。でも、まったりお家デートでテレビを見ている時に男性アイドル特集が流れた。今が聞き時だと思った。

「違うんだよ。それは憧れているRe:valeのユキさんとバンさんであって、恋愛感情とかそういうものじゃないんだ。インディーズなんだけどね、すごくカッコイイんだ! はじめの頃から応援しているんだ! 男が男のアイドルにハマるってちょっとアレかなって思って言わなかっただけで、そういうのじゃないんだよ。よかったら今度、一緒に見に行こうよ! もきっとハマるからさ!」

 そうして連れて行かれた。無理矢理。
 強制連行ってやつ? あんまり興味はなかったけど、百の熱意に負けた。


 インディーズっていうからこじんまりとしたライブなのかなって思ってたけど、全然そんなことはなかった。ライブハウスは確かに小さいかもしれない。でも、お客さんがぎゅうぎゅうに入っていて熱気が凄まじい。外はそんなに暑くなかったのにもうみんな汗だく。早く飲み物がほしい。カラカラの喉を潤したい。それくらい盛り上がっていた。
 ライトに照らされている彼らは長い髪を弄びながら華麗にステップを踏み、立ち位置を入れ替える。
 千と万。
 彼らがRe:valeの二人。
 百が夢中になっている男性アイドルグループ。

 それが私の、旧Re:valeとの出逢い――。




 それからというもの、百に引きづられながら路上ライブからライブハウスまでありとあらゆるRe:valeの活動に追っかけていった。
 案外楽しんでいる私がいるのだから彼らに出逢えて良かったのかもしれない。
 百はというと、横でペンライトを両手に振り回している。
 コールアンドレスポンスで更に一体感を増す会場に、ステージ上の彼らは期待に応えてステップアンドターン。蝶のように躍る。するとライトの色が変わり、イントロが流れる。ああ、あの曲は百が好きだって言ってた曲か。通常時よりも長いメロディーが終わり歌い出しへと進もうとしていた時だった――。誰しもが予想していなかった事が起きてしまい、ライブは中止。観客も、そしてスタッフも悲痛な面持ちで立ち尽くしていた。



『インディーズ男性アイドルRe:vale、ライブ中に事故。落下した照明器具と接触し、一人が重傷』

 先々月のライブで起こった痛ましい事故がネットのニュースに上がっていた。ちょっとしたコアなニュースサイトだから興味のない一般人には目にはつかないけれど。
 今はそれがかえってちょうどいいとさえ思ってしまう私がいる。
 何故なら、違うメンバーで新Re:valeとして立て直すことになったからだ。
 もしも、新しい方が成功したとして時代の波に乗るとする。すると、旧きを時代を知っている人達はどう思うだろう。おめでとうと素直に言える人が100パーセントではないだろう。
 私の大切な彼が毎日頭下げて通い続けて“取り敢えず”でも許しを得た願い――Re:valeを続けること、自分が代わりをつとめることを。
 あの時でさえ、メジャーデビューする直前だったんだ。まだこの話は終わっているわけじゃないだろう。きっと彼らは果たす。そうしたら、マスコミが駆けつけてくる。テレビや雑誌の出演も爆発的に増える。人気が出たら冠番組にだって。


 哀しいけれど、心が痛いんだけど、もう足を踏み入れてはいけないところにまで到達していたんだ。

 百、大好きな大好きな百。“私だけの百”って言えていたのに、禁句になってしまうんだね。
 男性アイドルに恋愛系のスキャンダルは痛手。だったら、私は――……。
《3話へ続く》

>>2018/02/08
アプリゲームの第三部、大好きなRe:valeの過去話回があって好きです。この連載は少しだけゲームの話をかじりますが、ゲーム沿いではありません。