ぬいといっしょ<2>


「ほらよ」

 取り出し口から今しがた落としたそれをに手渡したトウマはどこか誇らしげだった。宣言したとおり、彼は六プレイ以内で彼女が欲しがっていたモモにゃんを取ることにしたのだ。は何枚も硬貨を投入したというのに。

「トウマ……すご……え、うそ、マジで……?」
「んだよ。いらねえなら百さん俺がもらっていくぞ?」
「え、いやいや! いります、いります〜! トウマくんマジ神! ありがと〜!」

 中学時代からの腐れ縁のトウマに、こんな特技があったなんて。だったら初めから彼に取ってもらえばよかった。
 先日の“羽の生えた野口英世”が何枚も飛んでいくという悪夢を思い出しながらも、目的の太鼓ぬいをお迎えできたことの喜びが勝り、はモモにゃんに頬ずりをする。

「モモにゃ〜ん♪ はうぅぅ……か、かわいい……」
「いいっていいって。何なら、その横にいるヤツも取ってやるぜーーって聞いてねえし!」

 モモにゃんモモにゃん、あなたはどうしてモモにゃんなの。緩みっぱなしの顔で訳のわからないことを言っているが、あまりにも幸せそうで。「何か負けた気分になる」、とには聞こえないくらいにトウマは呟いた。
 ガラス張りの箱体から出られてから、モモにゃんはずっとに頬ずりをされ続けている。そろそろ解放してやったらどうだ、とコツンと彼女の頭を叩いた。その時、まじまじと至近距離でモモにゃんを見たトウマは違和感を覚えた。

「ーーってかさ、コイツ、目閉じてたか?」
「へ? ……言われてみれば、そうだよね。販促ポスターのモモにゃんは目ぱっちり開いてるし?」

 二人が顔を見合わせた後、視線を同じところに移した。彼女の手のひらにおさまっているモモにゃんは、まるで、すやすやと気持ちよさそうに眠っている。口元も少し開いており、「むにゃむにゃ」と効果音を付けられるくらいに。

「何か、生きてるみてえだな」

 トウマの言葉にハッとした。まさか、これはーー夢にまで見た、あのスターランク?! だったら大変だ。早く家に帰ろう。周りのファンに知られたら狙われてしまう。トウマ帰ろう。が彼の腕を引っ張った時、モモにゃんを抱えていた腕をがしりと掴まれた。
 
「ねえ、そこのお嬢さん。これ譲ってくれない?」

 もう見られていたのか。一歩後ずさるはモモにゃんをカバンの中にそっといれ、首を横に振る。

「いやです」
「じゃあ、僕と取引をしよう……ほら、諭吉一枚ーーいや、十枚で手を打たないかい?」
「…………ほ、ほし……いや、だめ」
「お前、今、ほしいって言ったろ?」
「トウマうるさい……。これは、ダメ。他のモモにゃんにしてください」
「え〜〜? トウマからも言ってやってよ〜。月雲の了さんが高値で買い取るって言ってるよって」
「了さん、は頑固なんで無理っすよ。俺たちもう帰りますんで」

 ぺこりと会釈をしたトウマが今度は逆に彼女の腕を引っ張る。「あの人はうちの社長だ。頭がキレる。面倒くさいことになる前に帰るべきだ」との耳元で呟いた。



 目を閉じたモモにゃんが気になり、はトウマを自宅へと招くことにした。その考えは見事に的中し、キッチンで飲み物とお菓子を用意していたは、トウマの慌てふためく声を聞きすぐさま駆け寄った。

「あ……、コイツ、しゃ、しゃべ……しゃべりだした……」

 トウマの指差す方に目をやれば、そこには、テーブルの上にミニサイズのしゃもじを放り投げてはぺたんと座り、大きな瞳からぽたぽたと涙を流すモモにゃんがいた。

「……ユ、ユキ……っ」
「ごめんね、モモにゃん。ユキにゃんはまだ発売されてなくてーー」
「うぅっ……寂しいよ、ユキ……」
「百さん、泣くなよ……」
「ユキ……ユキ……っ!」
「〜〜っ! わかった。ホンモノの千に会わせてやる」
「っ! ほ、本当……?」
「男に二言はねえよ。ほら、そうと決まれば行くぞ」
「は? トウマ、マジで言ってる? 千って……Re:valeの千だよ!? アンタ、頭大丈夫?!」
「頭いかれてんのはおめーだよバーカ」

 両頬をつままれて横に引っ張られた。「痛い痛い!」と引っ張られながらも抵抗するが、くつくつと笑うトウマは散々バカにされて“忘れられた”仕返しに、ぐるぐるとほっぺを回した。彼女の愛らしい顔が崩れる様につい笑ってしまう。

「ぷっ……面白え顔……っ」
「なんれふってええ(なんですってええ)〜〜!!!」

 地から足を高く上げて、これでもかというくらい思いっきりドスンとトウマの足先を目がけて落とせば、彼は痛みに悶えてうずくまる。人の顔で遊んだお返しよ。はトウマに言い返すも、やっぱりこれはやり過ぎたかなと、自分でやったにもかかわらず痛そうな表情になり、屈んで彼の背中に手を置いた。

「ごめん、やり過ぎた」
「手加減くらいしろって……」

 ごめんごめん。謝るにトウマは昨日に引き続き、深いため息をついた。最近、ため息が増えたのは気のせいじゃない気がする。

「俺を誰だと思ってやがる。ZOOLの狗丸トウマだぜ?」
《3話へ続く》

>>2018/05/25
昨日、お迎えしていなかった6匹全部アニメイト(UFOキャッチャー)で駆逐してきました笑
雛魚は6月半ばに登場する残り4匹全員もお迎えする予定です。