人気絶頂アイドルグループといえば「Re:vale」「TRIGGER」そして「IDOLiSH7」と名前が挙げられるようになったこの頃。彼らの事務所が合同で会社を設立した。その名はーー「ぬいどりっしゅ株式会社」。
「あ〜〜、太鼓ぬい欲しいよお! “にゃんばーれ”に“とりにゃー”、“にゃんどりっしゅせぶん”……皆欲しい! 箱推しだもんね、皆お迎えしなきゃなんだよね! あああ〜〜〜お金があぁ、お金がああぁぁ!」
「ったく、さっきからうるせえぞ、
。そんなに欲しけりゃゲーセンに行きゃいいだろうが」
「そんなこと言ったってね、トウマくん。ぬいたちはね、選ばれた人にしかやって来ないの!」
ぬいとは、ぬいどりっしゅ株式会社がゲームセンター限定商品として発売しているぬいぐるみのことである。十二人のアイドルたちがデフォルメされて、彼らのファンはこぞってゲーセン通いしていると聞く。都会のゲーセンには特に人が集まり、土日にもなれば時間を問わず長蛇の列が形成されるらしい。
例のごとく、
もまた友人のトウマを連れて秋葉原のゲーセン街へと先日赴いた。ガラスの奥から、つぶらな瞳で見る者をとりこにする太鼓ぬいたちはお客さんたちに取られるのをただただジッと動かずに待っているのだ。
も「お迎えしなくては」とコイン投入口にお金を何度も入れたが、それが叶うことはなかった。
「はあ?! ゲーセンにあったじゃねえか! この前も行ったろ?」
「それはそうなんだけどね、私が欲しいのはぬいであってぬいじゃないの!」
そうなのだ。彼女の言うように、ぬいには実はランクが付けられている。ノーマルランクのぬいが、いわゆるどこにでもいるぬいだ。ところが、数千分の一%の確率である“スターランク”ーーこれがファンを刺激していた。しかし、スターランクの存在は秘密裏にされている。一般的には知られていないのだ。知っているのはごくごく一部のファンのみ。トウマが知らないのも当然だ。
「んだよそれ。意味わかんねーぞ」
頭をぐしゃぐしゃにして、お手上げだとトウマは訴える。
近頃の女の子は皆こうなのか? 思い返してみても、彼女ほど異常に執着する人物は見当たらないと思う。ーーといっても、女の子の友達だなんて彼女しかいないが。
「だーかーら……」
マル秘情報なんだけどね。背伸びをした
が声のボリュームを下げてトウマに耳打ちをする。さり気なく屈んだトウマは仕方無しに相槌だけはしていた。
「愛しのトウマくん!」
「っ!? な、ななっ、なんだよ
」
「ってなわけで、これからゲーセン行くよ」
「何でそうなる! 俺の意見は聞かねえんだろ?」
「へ? あ! 今ね、まだ八種類しか出てなくてね。最初の狙いは……あ〜〜箱推しだからなあもうどうしよう」
「……ダメだコイツ。着いてから考えりゃいいだろ。取りやすそうなやつからでいいんじゃねえか?」
「採用!」
「はいはい……わかりましたよ」
仮にも俺もアイドルなんだけどなあ。トウマの呟きに気付くはずもない
は彼の手を取り、帰宅ラッシュ時の人混みを縫ってゲームセンターへと向かった。
ガラス張りの箱の中に眠るように八匹はいた。ディスプレイ用の子たちは金網に吊るされている。
今日はラッキーだった。人が並んでいない。
は百円硬貨を五枚入れて、残り回数が「6」と表示されるのを確認し、ボタンを操作する。手前にあったモモにゃんからにしようとアームを睨んでも、ヤツはなかなか穴に落としてはくれなかった。
「〜〜っ!! もう何よ!! ぜっっっんぜん、取れない〜〜!!」
思わずガラスを叩くに、トウマは止めに入る。
「アホか! 叩いたら変な音がなっちまうだろう?!」
「あうぅ〜〜〜ごめんなさい店員さん。わざとじゃないんです……」
「まだ鳴ってねえから」
やれやれ。ため息をついたトウマは「仕方ねえな」と袖をまくってポケットをまさぐった。つかんで手のひらで広げれば百円玉が三枚と十円玉が二枚。
「あと二百円、持ってるか?」
「え? あ、うん、もちろん。両替してるから……」
「貸せよ。やってやっから」
口をぽかんと開けた
から二百円を取ると、コイン投入口に五百円を再び入れた。プレイ回数は六回。そんだけありゃあ一匹は取れんだろ。このアームなら。ぶつぶつ呟けばトウマは中腰になり、目線をアームに合わせる。
「百さんのでいいんだろ?」
「うん! 何か、このモモにゃんとっても可愛くて“連れて帰って〜〜”って言ってるみたいで」
「そうか?」
「そんな気がする。あまり突っ込まなくていいの」
「んだよ……面倒くせえ。人がせっかく取ってやろうって思ってんのに」
「何か言った?」
「何でもねえ」
《2話へ続く》