「ーーというわけで、第1回はまぁまぁ成功したところに続いて! 天ちゃんパパにドッキリを仕掛けようと思います〜!」
は両手を広げて軽やかなステップを踏む。街路樹もなびいて彼女と一緒に踊っているようだ。
ここは、都内にある閑静な住宅街ーー九条天が住む家の玄関前に
と彼らはいた。
「本当にするの?」
「うん、しよう」
「……やらないっていう選択肢は?」
「う〜ん? 存在しない!」
天はやれやれといった顔で
に問う。
「どうしても?」
「うん、どうしても」
「今からボクたちとディナーにしようって言っても?」
「今から天ちゃん家でディナーでしょ?」
「あのねえ……」
「大丈夫だって〜〜。私たち、ラビチャ友達だし?」
「ラビチャ友達ってーー何時そんな仲になったの?」
「ふっふっふ〜〜。ひ・み・つ」
人差し指を口元に当てる
に密かにときめきつつも、天は許可を出して良いものか悩む。
「楽と同じで百歩譲ってもドッキリはいいとして……」
「今回も、
さんと結婚するから挨拶に来た、だよね?」
そのため、天と
の服だけ普段着ではなくどこに挨拶に行ってもおかしくはないくらいの格好をしているのだ。天は首までしっかりとボタンをとめて、シンプルなネクタイで締めている。髪は目や耳元にかからないように後ろに流しており、知的な印象を与える姿だ。彼女もまた、ブラウスに膝丈スカートスタイルだ。アクセサリーは最小限に留め、可愛らしさを出しつつも大人な女性を出していた。前回と同じく不慣れな格好に
は苦笑いをする。
「二度目だよこの格好。笑っちゃう」
「そんなことない。似合ってるよ、
」
「天ちゃん……」
天はあえて呼び捨てで呼んでみた。それが効いたのか
は頬を赤らめる。天がニコッと笑いかければつられて笑った。
「天も実はドッキリを仕掛けてみたかったりするのか?」
「……かもね。黒いオーラが見えてる気がする」
楽と龍之介は「あの天がわりとやる気になってる」と少しばかりヒヤヒヤしながらも腕時計を確認する。時刻は午後七時。ターゲット・九条鷹匡がリビングに必ずと言ってもいいほどいる時間だ。おそらくターゲットは娘と夕食を楽しんでいる頃だ。
「そろそろ、時間でしょ。行くよ」
先に動いたのは天だった。天は久しぶりの自宅にきまずさはあったものの、インターホンは鳴らさずに普段通りに玄関の門をくぐってドアノブに手をかけた。結婚の挨拶に来たのに隣にいないと不自然だろうと
は小走りで天の横へとつく。残る二人は平然を装ってのんびりと前の二人へと近寄る。天と
がラブラブカップルになりきっていたため思わず笑ってしまいそうになる楽ではあったがなんとか堪えて、出迎えてくれた娘ーー理にぺこりと頭を下げた。
白が基調のシンプルなリビングに通されれば、ターゲットは湯呑みでお茶をすすっていた。
「理、お客さんを通したのか……天、帰ってきたんだね」
貴様らもいるのか。言葉を付け足した九条鷹匡は湯呑みをテーブルに置く。細い目で
をじろと睨めば、盛大なため息をついた。
「
、ラビチャでも言っただろう? 私は暇じゃないんだよ」
「そんなこと言わないでよ〜天ちゃんパパ」
「言葉遣いがなってないよ、
」
ペシッと後頭部を叩く天に
はわざとらしく舌を出す。
「ごめんごめん。あ、あのね、おとうさん……」
「待て。何時から私は
の父親になったんだね?」
「これからなる予定」
「何をふざけたことを」
「……本当の話なんです、九条さん」
ラビチャで彼女からは聞いていたが、いざ息子から話を聞くとなると嘘のようには感じない。そもそも天がふざけた冗談を父親に言うものか。手を口元に当てて考える九条鷹匡に天は追い打ちをかける。
「聞いてください、九条さん。ボクたちは……来月入籍します」
「なっ……馬鹿な……。本当か、天」
「はい」
「……そうか……」
「はい」
「どこで暮らすつもりなんだね?」
「彼女の家で今までどおり一緒に暮らしていきます」
「そうか。天……まさか、こ、こ……こっ、子どもが出来たのかね……?」
「……出来た、と言ったらどうしますか?」
「っ……?! そ、そうかーー……そうか」
急に黙り込む九条鷹匡に、天は声をかける。発狂されたら何をしだすか分からない父が心配で顔を覗き込めば、目が潤んでいることに気が付き複雑な気持ちになる。こんな親子間でも孫が出来るとなれば嬉しいものなのだろうか。利害の一致で成り立つ、只の偽りの家族だというのに。本当の家族仲を引き裂いた原因でもあるというのに。だが、偽りだとしても、生活を共にすることで多少の情は出てきてしまった。おそらく、お互いにーー。天は後方で見守るように待機していた二人にアイコンタクトを送った。
「……き、貴様ら……っ!!」
二人があげた看板には「ドッキリ大成功」の文字。一瞬、間が開いたが九条鷹匡は理解した。
「ほう……私にそのような事を。覚悟は出来ているのかね?」
「あ、あのね天ちゃんパパ。これにはふか〜い事情がありましてーー」
「貴様らのくだらない事情とやらに巻き込むでない!!」
テーブルを両手で叩いて立ち上がる鷹匡。隣の部屋に移っていた理に声が届くほどの怒鳴り声だ。その反面、表情がいささか落ち込んでいるようにも見えるのは気のせいではないだろう。しかし、その表情が彼らに勘付かれることはない。
天はというと、表顔では怒鳴った父を宥めていた。
や後方の彼らには聞き取れなかったが、一応は彼の父親でもある鷹匡にだけは聞き取れたようで青筋を増やして珍しく舌打ちをする。
「いい加減、八方美人はやめなさい。私たちは天のファンとしてここにいるわけではないのだよ」
《終》