楽と龍がビジネスパートナーなら、彼女もまたビジネスパートナーだ。それ以上でもそれ以下でもない。生活をともにすることになっても変わることはない。彼らもそう思っているだろう。
ーーと考えていたボクが馬鹿だった。
楽は分かりやすい。
さんに好意があると言っているようなもの。仕事中も「早く帰ろう」だの「
は何してんだろうな」とか。彼女の話題ばっかり。ゲリラライブが終わってからも、彼女をどこかに連れて行ったみたいだったし。
龍は恋愛感情云々ではなく、ただ単に「人として好き」なんだ。ボクたちと接し方が同じ。彼女に対しても心配性モードを発揮していたけど。
「ねぇ、
さん」
「うん? 天ちゃんどうしたの……っ、わっ?!」
楽が
さんを連れて戻ってくるのが見えてから、ボクは彼女が一人になるこの瞬間を待っていた。手首を捕らえてグイッと引き寄せれば傾く体。ほら、ボクだってこれくらいのことは出来るんだよ。
「て、てて、天ちゃ……っ?!」
口を魚みたいにパクパクさせちゃってる。何が欲しい? ご飯? それとも……?
「ねぇーー
」
ボクは初めて彼女を呼び捨てで言ってみる。
今は、特別。年下扱いなんてしてほしくなかったから。一人の男として見てほしいから。
人差し指を
の口元に当てれば、目を大きく瞬かせた。
「ボクはね……楽みたいに優しくはないんだ。だから、言ってあげないよ」
ーーでもね。
気持ちでは負けていないって断言するよ。
顔には出さないけど、心臓がドクドク言ってる。緊張してるんだ。人を前に立つことなんて慣れているのに。それが
だと、駄目みたい。
唇をなぞって、そのまま頬に手をやる。雨に濡れてひんやりとしていた彼女の頬が、少しばかり熱を帯びた気がした。
「
は今、どういう気持ち……?」
「わ、わ……私は……っ!」
「ドキドキ、してる?」
「っ……て、天ちゃ……ん」
これからどうしてあげようか?
ボクは“楽みたいに優しくはない”んだ。ストレートに「好き」って言ったりしない。だからと言ってこのまま楽に持って行かせないよ。選択肢を追加してあげないとね。
「ほら、
、言ってみたら?」
そう。ボクは狡いんだよ。自分からは言わない。
「ねえ、誰のことを考えてる? 誰のせいでこんな気持ちになってる?」
の顎に手を添えて自分と無理矢理目線を合わせるだなんて。本当にボクは狡い男だ。
《天End》