ブーケを君に贈りたい<9>


 楽と龍がビジネスパートナーなら、彼女もまたビジネスパートナーだ。それ以上でもそれ以下でもない。生活をともにすることになっても変わることはない。彼らもそう思っているだろう。
 ーーと考えていたボクが馬鹿だった。
 楽は分かりやすい。さんに好意があると言っているようなもの。仕事中も「早く帰ろう」だの「は何してんだろうな」とか。彼女の話題ばっかり。ゲリラライブが終わってからも、彼女をどこかに連れて行ったみたいだったし。
 龍は恋愛感情云々ではなく、ただ単に「人として好き」なんだ。ボクたちと接し方が同じ。彼女に対しても心配性モードを発揮していたけど。

「ねぇ、さん」
「うん? 天ちゃんどうしたの……っ、わっ?!」

 楽がさんを連れて戻ってくるのが見えてから、ボクは彼女が一人になるこの瞬間を待っていた。手首を捕らえてグイッと引き寄せれば傾く体。ほら、ボクだってこれくらいのことは出来るんだよ。

「て、てて、天ちゃ……っ?!」

 口を魚みたいにパクパクさせちゃってる。何が欲しい? ご飯? それとも……?

「ねぇーー

 ボクは初めて彼女を呼び捨てで言ってみる。
 今は、特別。年下扱いなんてしてほしくなかったから。一人の男として見てほしいから。
 人差し指をの口元に当てれば、目を大きく瞬かせた。

「ボクはね……楽みたいに優しくはないんだ。だから、言ってあげないよ」

 ーーでもね。
 気持ちでは負けていないって断言するよ。
 顔には出さないけど、心臓がドクドク言ってる。緊張してるんだ。人を前に立つことなんて慣れているのに。それがだと、駄目みたい。
 唇をなぞって、そのまま頬に手をやる。雨に濡れてひんやりとしていた彼女の頬が、少しばかり熱を帯びた気がした。

は今、どういう気持ち……?」
「わ、わ……私は……っ!」
「ドキドキ、してる?」
「っ……て、天ちゃ……ん」

 これからどうしてあげようか?
 ボクは“楽みたいに優しくはない”んだ。ストレートに「好き」って言ったりしない。だからと言ってこのまま楽に持って行かせないよ。選択肢を追加してあげないとね。

「ほら、、言ってみたら?」

 そう。ボクは狡いんだよ。自分からは言わない。

「ねえ、誰のことを考えてる? 誰のせいでこんな気持ちになってる?」

 の顎に手を添えて自分と無理矢理目線を合わせるだなんて。本当にボクは狡い男だ。
《天End》

>>2018/04/05
てんてんエンドは「告白を仕向ける」がテーマです。