「……やっぱり、許してやらない」
「へ?! ちょっ……と、待っ……!」
「待たない」
草木の覆い茂ったここならば人目にはつかないだろう。本来なら建物の中がよかったんだけどな。ゲリラライブだったから控室なんてなかった。数ヶ月前の俺たちじゃ考えられない生活の変わりようだった。
最下層まで落ちてしまったら、もうこれ以上、落ちることはない。のぼりつめるだけだ。てっぺんまで。天も龍もいる。姉鷺だってサポートしてくれるし、今はコイツがいる。何とかなるだろう。
何時しか彼女の存在が大きくなっていたんだ。
「あっ、あの……がっくん?」
彼女の背に大木があったのをいいことに、じわりじわりと近づいていた。俺は
の太ももの間に自らの脚を割り込んで逃げられないようにする。
「ひゃっ!」
「なんて声出してんだよ。まだ何もしてねえだろ?」
「ば、馬鹿っ! 近い! 近いってば!」
「別にいいじゃねえか。これからもっと……」
近くなるのにな。
耳たぶに吐息がかかるようにわざとらしく囁やけば、
はまた高い声を上げた。ここまでして拒絶しないということは、嫌ではないということだろうか。期待してもいいのだろうか。
すべらせるように
の頬を撫でる。親指の腹で唇をなぞれば、抵抗した
がガブっと噛んできた。
「……そそられるな、それ。ヤバイかも」
「ふぇ?」
きちんと伝えようと思っていたのにな。上目遣いで(背が違うから自然とそうなる)、涙目で、こんな姿だったらな。さすがの俺でもイタズラしてやりたくなるってもんさ。考えても見ろよ。想いを寄せているヤツが自分の指を咥えているんだぜ? ヤバイだろ?
俺は次に
の歯列をなぞる。開きかけた口内へねじ込ませるように人差し指と中指を入れた。
「んふっ……! んぁ、あぅ、んふっ……ふぁ……!」
とろんとした目つきの
は口の端から唾液を漏らす。
「ふぁっ、ふ、んぅ……!」
「それ、俺の名前か?」
「んふ、うぅ…っ!」
「ーー悪い。やり過ぎたな」
イタズラもほどほどに、だ。呼吸を乱す
の背中をさすればギリッと睨まれた。
「……馬鹿。がっくんの馬鹿」
そうだな。俺は馬鹿だ。
のことしかハナっから見えていない馬鹿な野郎なんだ。
「馬鹿で結構だ」
ハンカチで口の周りを拭いてやってもそっぽ向かれた。そんなこともお構いなしに、俺は
を力いっぱいに抱きしめて耳元でこう囁くんだ。
「俺は
が好きだ」
《楽End》