ブーケを君に贈りたい<8>


「……やっぱり、許してやらない」
「へ?! ちょっ……と、待っ……!」
「待たない」

 草木の覆い茂ったここならば人目にはつかないだろう。本来なら建物の中がよかったんだけどな。ゲリラライブだったから控室なんてなかった。数ヶ月前の俺たちじゃ考えられない生活の変わりようだった。
 最下層まで落ちてしまったら、もうこれ以上、落ちることはない。のぼりつめるだけだ。てっぺんまで。天も龍もいる。姉鷺だってサポートしてくれるし、今はコイツがいる。何とかなるだろう。
 何時しか彼女の存在が大きくなっていたんだ。

「あっ、あの……がっくん?」

 彼女の背に大木があったのをいいことに、じわりじわりと近づいていた。俺はの太ももの間に自らの脚を割り込んで逃げられないようにする。

「ひゃっ!」
「なんて声出してんだよ。まだ何もしてねえだろ?」
「ば、馬鹿っ! 近い! 近いってば!」
「別にいいじゃねえか。これからもっと……」

 近くなるのにな。
 耳たぶに吐息がかかるようにわざとらしく囁やけば、はまた高い声を上げた。ここまでして拒絶しないということは、嫌ではないということだろうか。期待してもいいのだろうか。
 すべらせるようにの頬を撫でる。親指の腹で唇をなぞれば、抵抗したがガブっと噛んできた。

「……そそられるな、それ。ヤバイかも」
「ふぇ?」

 きちんと伝えようと思っていたのにな。上目遣いで(背が違うから自然とそうなる)、涙目で、こんな姿だったらな。さすがの俺でもイタズラしてやりたくなるってもんさ。考えても見ろよ。想いを寄せているヤツが自分の指を咥えているんだぜ? ヤバイだろ?
 俺は次にの歯列をなぞる。開きかけた口内へねじ込ませるように人差し指と中指を入れた。

「んふっ……! んぁ、あぅ、んふっ……ふぁ……!」

 とろんとした目つきのは口の端から唾液を漏らす。

「ふぁっ、ふ、んぅ……!」
「それ、俺の名前か?」
「んふ、うぅ…っ!」
「ーー悪い。やり過ぎたな」

 イタズラもほどほどに、だ。呼吸を乱すの背中をさすればギリッと睨まれた。

「……馬鹿。がっくんの馬鹿」

 そうだな。俺は馬鹿だ。のことしかハナっから見えていない馬鹿な野郎なんだ。

「馬鹿で結構だ」

 ハンカチで口の周りを拭いてやってもそっぽ向かれた。そんなこともお構いなしに、俺はを力いっぱいに抱きしめて耳元でこう囁くんだ。

「俺はが好きだ」
《楽End》

>>2018/03/29
がっくんエンドは「告白される」がテーマです。