ブーケを君に贈りたい<6>


 無事に引っ越しを終えたTRIGGERの彼らはソファーに体を預けた。くたびれてしまった。
 業者にもやってもらったが少しでも費用を抑えたかったため出来ることは自分たちで片付けた。部屋を何往復もしたり、荷物を上げ下げしたり、案外重労働だった。体を鍛えていても、いっぺんにしてしまわなければそのまま放ったらかしになっても、家主の彼女に迷惑をかけてしまうからと一日で終わらせたのだ。
 は三人にいれたての紅茶を出した。

「お疲れ様です。紅茶いれたのでどうぞ。低カロリーのこんにゃくゼリーもよかったら食べて」
「サンキュ」
「いえいえ。夜中にお菓子っていいのかなって思ったんだけど……」
「さすがに腹が減ったからな。低カロリーってのは助かるぜ」
「ボクももらおうかな」
「俺も。お腹空いちゃった」
「はい、どうぞ〜〜天ちゃん、つなぴにも、はい」

 天ちゃんとつなぴってボクたちのことかな。二人は顔を見合わせて苦笑い。

「ぶっ……可愛いじゃねえか。天ちゃん、つなぴ……っ!」
「あなたはがっくんだからね!」

 がっくんと呼ばれた男ーー楽は腹を抱えて笑う。自分だってがっくんとあだなを付けられているではないか。

「がっくん呼びは四葉にもされてるからな」
「楽、さんにがっくん呼びされて嬉しいんでしょ?」
「嬉しくないと言ったら嘘になるな。天だってそうだろう?」

 まさか返してくるとは。天はそっぽ向いて「天ちゃん、ね……」と復唱した。ファンからは「天くん」と呼ばれている。ちゃん付けされたのは初めてだ。何だかむず痒い。

「つなぴ、か……妹が一人増えたみたいで嬉しいな〜!」
「龍は適応力があるな」
「うん。さすがだね」



 家ではわきあいあいと四人で仲良く生活していると、カオルは龍之介から連絡を受け取っていた。数日ぶりにマンションに行くカオルの足取りは軽く、鼻歌を歌いながらスキップをしていた。
 しばらく曲作りに専念したいからと部屋に閉じこもったきりのをTRIGGERの三人は心配し、せめて邪魔にだけはならないようにと大きな音を立てないように生活をしていた。作曲部屋の隣が自分たちの部屋だからと、その部屋から離れていたリビングで過ごす日々が続いていたが、先ほど、彼女の叫び声で終焉を迎えたのだ。
 早朝からボサボサ頭がドタバタドタバタと走ってくる。

「できた〜〜! あぅっ……!」
「っ……! 何やってるの……さん」

 ドッテーン。ラグで足を滑って盛大にこけた。

「キミってそそっかしいよね。陸と同じ……」
「は、はうわわああああ! て、てて、天ちゃん!!」
「ボクがいなかったら床とキスしてたんじゃない?」
「ごめんなさい!」

 実は盛大に顔面からこける直前、天が起きていたため助けられたのだ。つまりは、は天を床に押し倒すようにしていた。慌てて退けるに天は彼女の腕を引っ張って、再びあの態勢に。

「それとも……ボクとする?」

 余裕な彼の笑みにの頬はみるみる紅く染まる。

「冗談だよ。本気にしちゃった?」
「な……っ!」
「可愛い」
「へ……?」
「ふふ。……ほら、二人とも起きて。さんが曲出来たって」

 何なんだ、この男は。九条天、彼は何者なんだ!
 心の中で叫ぶは高鳴る鼓動を必死におさえ、平静を装いながらも寝ぼけ眼の楽と龍之介に新曲のタイトル名を告げた。
 数十分後、ボサボサ頭のを見たカオルは絶叫し、「女性は身だしなみが大事なのよ! そこにお座りなさい!」と手際よくヘアブラシでむちゃくちゃに絡まった髪を解いたのであった。




 急遽、路上でのゲリラライブが決まった。曲はもちろん、が寝ずに作った新曲でいく。
 ゲリラライブでやる上で注意すべき点といえば、混乱を招かないようにすること。人が集まりすぎてしまったら危険だ。手短に、且つ、多くの人々に「TRIGGERは活動している」と周知することが今回の目標。すぐ引き上げる予定でいた。

「こんばんは。TRIGGERです」

 巨大モニターにアイドリッシュセブンの七瀬陸が映る中、九条天はそれを背に雨に打たれながらも挨拶をする。足を止める人、何事もなく通り過ぎる人、「何かやってる」と耳だけ貸す人。様々な人が一瞬だけでも彼らを視界に入れた。
 このまま、どうか、何事も起こらぬようーー。
 二人で一緒の傘に入っていたとカオルは木陰から見守っていた。
《7話へ続く》

>>2018/03/23
カオルお姉様を動かすのが楽しいです。