「そーちゃんってホント、マネージャーを助けてばっか! イライラする!」
「彼女だけが悪いんじゃない」
先ほどからずっとこれだ。頭を抱える
ではあったが、彼らの言い合いの原因が自分でもあるため席を外せない。
事の発端は数十分前の担当者のセリフだ。
ラビチャで提出書類の質問を送り、彼らからの返信を自らまとめてプロフィールを作成した。壮五本人には完成した書類を確認してもらったが、環にはあえて見せなかった。最後の質問、「会いたい人は」の項目を、壮五のプロフィールと見比べた時に発見されてしまうから。
まるで、仲間はずれにされたようだ。環は苛立ちをあらわにし、その矛先を“
をかばった壮五”に向けたのだ。
「ほら、また出たよそのセリフ!」
バンッ、とテーブルを叩く環。
は彼の勢いに口を開けずに後ずさりしてしまう。一方、壮五は珍しく声を荒らげる。
「
さんだって頑張ってる。ミスしてもすぐに修正してる。それでいいじゃないか!」
「俺だって頑張ってるよ!」
「それは近くで見ているから、よく分かってるつもりだよ!」
だから、ね。もういいんだ。皆頑張ってるんだよ。わんわんと泣きじゃくる子どもをあやすように、壮五は環の背中をさする。
「それに、あの質問はわざと送らなかったんだよ。君のために。そうでしょ?」
ちらと
を見る壮五に、
はハッとして力強く頷く。喋らなければ。説明しなければ。その思いで、大きく息を吸って言葉にする。
「……私の……トロい私のせいにしてしまえば済むと思ったんです。勝手にごめんなさい……」
「あー、もう! んだよ、そーちゃんも
も俺を信用してないってわけ?!」
「違う、そうじゃない!」
「どう違うんだよ!!」
「違うんだよ環くん!
さんも僕も、傷付く君が見たくないんだ!」
「そうかよ! わかったよ!」
壮五の手を払いのけてドアを蹴り飛ばす勢いで出ていく環に、
と壮五は追いかけようと席を立った。ひっくり返るパイプ椅子に気にもとめずに部屋を出れば、意外にも彼はすぐそばで立ち止まっていた。否、動けずに固まっている。不思議に思った
が覗き込めば、顔が真っ青だった。
「た、環く……! あ、ああ、あっーー……い、や……」
「
さん? 環くん?」
様子のおかしい二人の前に行けば、揃いも揃って顔が真っ青だ。
に至っては悲鳴にも似た声を出して。どうしたの環くん、
さん。壮五が声をかけてもうんともすんともせず、肩を揺らしてみてもそれが変わることはなかった。再度、二人の名前を、今度は大きく呼んでみれば「やっぱりな」と後方から他人の返事があった。近寄る足音に振り返ると、そこには、頭をぽりぽりとかく男がいた。小脇に酒瓶を抱えて。
「おっと……環じゃねえか。それとーー久しぶりだなあ、
ちゃんよ。最近俺の相手してくれねえし、店にもいねえからどこに行ったのかと思えば……」
舐めずり回すように
を見た男は、口元に手を当てて口角をあげる。
「今の仕事はこいつらの付き人か? それよりもさあ、俺の相手の方が何倍も愉しませてあげるってのによお」
「ひっ……やぁっ……!」
くつくつと笑いながらも
のお尻を鷲掴みにし、感触を愉しむ。
が抵抗をしないのをいいことに、男はその手をやめようとはしない。
「いいじゃねぇかよお。来るたびに指名してあげただろう? これくらい……」
「やめろよ……」
「た、環くん!」
「やめろよクソ親父!
に触わんじゃねえ!!!」
食ってかかる環。右手の握り拳がぷるぷると震え、今にも男ーー環の実の父親へと飛んでいきそうだ。それでも、壮五の「ダメだよ環くん!」の声に、気持ちを沈めようとする。本当は、殴りたい気持ちでいっぱいだ。
「や、やめてください……。今の私は“お店のお姉ちゃん”じゃありません。“彼らのマネージャー”です……っ!」
「ああ?! 人がかけてやった恩を仇で返そうってか?!!」
「うるせえよクソ親父……」
「環、口の聞き方がなってないぞ。そんなふうに育てた覚えはーー」
俯いて肩を震わして堪える環に、壮五はぽんと肩を叩く。下がっていて。二人に聞こえるくらいの小声で言えば、前に出て男を睨みつけた。
「口の聞き方がなっていないのは貴方です。貴方がどういった理由でこちらにいるかは知りませんが、僕たちは仕事としてこちらにいます。遊びに来たわけではありませんし、今はプライベートの時間でもありません。これからも僕たちは仕事がありますので失礼します。ーーそれと、金輪際、二人と関わらないでいただきたい。仕事に支障が出ますので」
でないと、証拠の写真と音声を警察に提出しますから、そのおつもりで。
壮五の気迫に男は一言も発することなど出来やしなかった。
《7話へ続く》