面接に苦手意識を持っていた
にとって、これからの時間は苦痛になるだろう。緊張のし過ぎで腸が過敏に動き、腹部が痛いのだ。少しでも緊張を解そうと深呼吸をするも勝てなかった。
面接はものの十分で終わってしまった。簡単な自己紹介をすれば社長でもあり紡の父親でもある音晴はしくしくと泣き始め、幼少期時代の懐かしい話ばかりをしたのだ。「もともと君を採用するつもりでいたからいいんだよ」と鼻をかんだり涙を拭いたりで忙しい社長の代わりに、紡は笑顔で話し出す。「咄嗟に思い浮かべたのが
ちゃんだったから」と。つまりは、面接などしなくても決定事項だったのだ。
だがしかし、大きな問題がある。それは、MEZZO"本人たちへの説明だった。
IDOLiSH7の仕事と掛け持ちでし始めた時、彼らに「専属のマネージャーをつけよう」という話を社長と事務員はしていたのだ。それを偶然にも聞いてしまった四葉環は「そんなのいらねえって!」と怒りをむき出しにし、普段は落ち着いている逢坂壮五でさえも「大丈夫です。必要ありません」と断ったのだ。
本人たちの意見は尊重してあげたいが、今のMEZZO"はかなりの過密スケジュール。仕事のマネジメントを自分自身でするには無理があった。それも、壮五が一人で管理している以上、尚更のことだ。彼への負担が大き過ぎる。抱え込んでしまう彼のことだから、何でもかんでも一人でやっていってしまうだろう。そうなると、いつか、彼は倒れてしまう。そこで、彼らのマネージャーでもある紡は考えた。だったら、自分のよく知っている信頼できる彼女にしようと。彼女だったら、彼らも納得するのではないかと。
「いろいろ考えても仕方がない。二人を呼ぼう。紡、二人を連れて来なさい」
小鳥遊社長は紅茶を一口飲んで指示をする。
紡はこくりと頷き席を立つ。唇を噛み締め、目の赤い
に「大丈夫だから」と声をかけ、部屋を出た。戻ってくるまで十数分といったところか。それまでに、この情けない顔をどうにかしなくては。両手で自分の頬を二、三回叩き、気を引き締めた。
二十分後。
紡が社長室に戻ってきた。複雑な顔をした逢坂壮五と、明らかに嫌な顔をした四葉環を連れて。「そこのソファーに座ってよ」と社長は
が座っているソファーの向かい側へと案内する。「ゲッ……」、環は言葉が漏れる。それに対し壮五はすかさず注意した。
「えーっと……さっきぶり、
さん」
彼女の目の前に腰を下ろした壮五は
に挨拶をする。内心は環と同じ考えでも、表面上には一切出さないのだ。にこりと笑う彼に、
は思い切り頭を下げた。机があることも忘れる勢いで。
「は、はいっ! さっきは……さ、先ほどはありがとうございました! いっ、痛……っ」
「ホント、鈍くさ……」
環は相変わらずの強い口調で
を見下す。
「環くん……。社長、大切なお話があるとマネージャーから聞いたのですがーー」
「そうなんだ。まだ紡からは聞いていないようだね」
「社長からお話されたほうがいいと思いまして……」
でないと、きっと彼らは来たがりませんから。紡の心の中の声が聞こえた気がする。社長はため息をついてから、コホンと咳払いをして彼らを見つめた。
「いいかい、壮五くんに環くん。これから話すことは二人のために必要だと考えて決めたことなんだ。異論は認めないよ。ーー君たちMEZZO"にマネージャーをつけることにした。目の前にいる彼女、
さんだ。仲良くやってほしい」
「
です。よろしくお願いしまーー」
「俺は認めねえ……」
の言葉を聞きたくないと遮るように環はつぶやき始める。認めない。認めない。つぶやきの連呼が徐々に大声の叫びになり、彼女の傷口をえぐっていく。
「絶対、認めねえ!!」
「環くん!」
社長室を出ていく環。血相を変えて追いかけて行く壮五。
は二人を追いかけようとドアを開けるも、足がすくんで言うことを聞いてくれない。追いかけないと、追いかけないと……! そう思うほど、彼女の足は地面に這いつくばる。
「私じゃやっぱりダメなんだ……ダメなんだ……っ!」
崩れ落ちるように
は廊下に座り込んだ。遠くなっていく二人の背中を見つめながら。
「ーー悪いな。うちのが、あんなんで……。あんたは何も悪くないってのにな」
ぽんぽん。
の肩を叩き、慰めの言葉をかけたメガネ男子は片膝をついて手を差し伸べる。
「ちょっと付き合ってくれないか?」
「へ?」
「何だその顔は。取って食いやしねえよ。リーダーとして、あいつらの代わりに説明するだけだ。コーヒーくらいおごってやるよ」
《3話へ続く》