SR/underside 2


 ――ねぇ、今夜は離さないから。覚悟してて★
 ――ねぇ、今夜は離してあげない。覚悟してよね。

 サンラジオ・レジデンス/アンダーサイド 第2回


「リスナーの皆、こんばんは~★ 朝日奈椿です!」
「こんばんは。朝倉風斗です。今夜はいっぱい楽しませちゃうから、覚悟してくださいね!」

 風斗はカメラが回っていないにもかかわらず、とびきりのスマイルを向ける。
 うわっ、何その猫かぶり。ボソッと呟く椿にガンを飛ばし、風斗は“偽物のスマイル”で小言で言う。つば兄、僕は“朝倉風斗”だよ? と。そう。朝日奈とは名乗っていない。今夜はアイドル・朝倉風斗でいくらしい。何せ、他のスタッフがいる。気心の知れた人だけではない。
 ふと勘付いた風斗は、テーブルに備え付けられていた機械のボタンを長押しする。

「ぶっ……何、そのキャラ~。痛てぇ! 何すんだよ風斗~」
「あーあ。最悪。せっかく朝倉風斗でいこうと思ったのにさ。どうしてくれるわけ?」

 一時音声を拾わせないためのボタンだ。その間はCMが流れている。

「ごめんごめん。風斗なのに風斗じゃなくて、調子が狂っちゃって、つい」
「はぁ……。ま、そうだよね。いいよ。じゃあ、こうする――」

 風斗はボタンを離す。向かい側に座る年の離れた兄・椿を見て、にやりと余裕たっぷりに笑って見せる。本当に自分より9つも下なのか、と思ってしまう。変に大人びているというか、子供っぽくないというか、素直じゃないというか、ひねくれているというか、よくわからない。椿はごくりと唾を呑む。

「ねぇ、僕、今夜だけ……“小悪魔系”でいいかな?」

 公開収録なら黄色い歓声が四方八方からありそうだ。現に、音声スタッフに朝倉風斗ファンがいたらしく、失神者が一名出ていた。
 こうして始まった、第2回。前回に引き続き、新コーナーをする時間になっていた。手元の資料を眺める彼ら。梓と棗のを聞いていたということもあり、予習はバッチリだ。コホン、と軽く咳払いをする椿は、メロディーが終わりを迎えたのを見計らってタイトル名をコールした。

「前回に引き続き、このコーナーは、今年不運だったって思ったことをリスナーの皆からおたよりをもらって、それを俺達が認定する。んで、見事認定されたら、慰めの甘~い言葉をプレゼント! じゃ、さっそく。風斗、読んで~」

 命令するなと言わんばかりにむすっと頬を膨らます。

「あー、もう……。ラジオネーム・さんから」
ちゃん、ね。可愛い名前」
「それ、地味声優も言ってたから。えーっと……“椿さん、風斗くんこんばんは。今年の不運なことをどうか聞いてください”だって。やーだね。聞いてあげない」

 リスナーからのおたよりをテーブルに置く。

「風斗、おまえ、何言って……」
「嘘に決まってんじゃん。何焦ってんの? ちょーうけるんだけど」

 クスクス笑う風斗は再びおたよりを手に取り、文章を目で追う。ふむ、なるほど。これはまた、面白い内容だ。
 一方の椿は、内心ハラハラ状態。普段の朝日奈風斗だけれども、これでラジオが成り立つのか不安だった。それを汲み取ってか、ひょいひょいと手招きされる。耳を近づけろとのジェスチャー。その通りにすれば、僕が誰だかわかってるの? 大丈夫だよ、つば兄。と、信じ難い言葉が来たのだった。

「ちょーっとツンツンし過ぎたかな? ごめんね。気を取り直して……“私の今年最大の不運は、フォルテのコンサートチケットが取れなかったことです。私の住んでいる所は地方のはずれなので、なかなかコンサートに行く機会がありませんでした。今回のフォルテは近いところにあったのでファンクラブ経由で応募したのですが、ダメでした(>_<) 行く気満々だったのに、悲しいです。慰めてほしいです”って」
「え、フォルテのコンサートって……風斗のじゃん」
「そ、僕の。この子、僕のファンでもあるみたい。ふーん……はい認定ー」

 面白い。ここはひとつ、サービスしておかないとね。どのセリフがいいか、脳内の空想ノートにある言葉の羅列を点と点でつなぎとめる。風斗は再度手元にある機械を操作をし出す。音声スタッフは同時にエコー調整に入り、エロティカルなメロディーが漂ってきた。
 準備は整った。僕からいくよ。風斗は目配せをする。

『コンサート会場なんかに来なくたっていい。僕が隣にいるのに、そんな必要あるわけ? もっと、もっと近くにきなよ。……耳元で囁いてあげるから、

 ファーオ。
 前回同様、すっとんきょんな効果音が響き渡る。

「うわー、僕のセリフが台無し。ねぇ、さん、どうだった?」
「これ、慰めてんの? ちょっと違くね? こんな感じだろ~?」

 続いて椿が音声スタッフに合図を送る。リズミカルな彼らしい曲に変わる。

『フォルテのコンサート、残念だったね。そんなに落ち込まないで? ほらー、可愛い顔が台無し。代わりにさ、俺と梓のイベントに来ない? サイコーの一日をちゃんにプレゼントするから!』

 ちょー普通。相変わらず、フツー。チャラ声優のくせに、こういうのはベタなんだ。散々兄弟達に難癖は付けるが、やっぱり嫌いじゃないと思う風斗であった――。


 風斗に振り回されながらも、エンディングトークも終盤にさしかかっていた。

「サンラジオ・レジデンス/アンダーサイド、どうだった? よかったでしょ? 僕のおかげかな」
「俺のおかげでもあるし!」
「……ま、そーいうことにしといてあげる」
「今夜で終わりっぽいけど、これからもよろしくな~★」

>>2014/12/17
明日から、公式ラジオ再スタート! ということで。
こっちの二人組も、言い合うと思います(笑)。風斗って「つば兄」って言うのか……。チャラ声優はここではやめておきました。

【補足】一番最初の色を変えている文章はラジオのタイトルコールです。