SR/underside 1


 ――なぁ、今夜は離さない。覚悟しろよ?
 ――ねぇ、今夜は離さないよ。覚悟してね。

 サンラジオ・レジデンス/アンダーサイド 第1回


「リスナーの皆さん、こんばんは。朝日奈梓です」
「あ、朝日奈……棗です」
「棗、噛んでるよ。サンラジオ・レジデンス/アンダーサイドが始まりました。第1回の担当は僕・梓と、スポ根野郎の棗がお送りします」
「おい。スポ根野郎って……風斗化してるぞ、梓」
「え? 何か言った、棗?」

 じろり、と眼鏡の奥からの鋭い視線。棗はこの無言の圧力が苦手だ。特に、卵違いの二人の兄のは。聞かなかったことにしよう。棗は進めようと口を開く。

「な、何でも……。じゃあ、そろそろテーマに――」

 まだだよ。オープニングトークも知らないの?
 マイクに拾われないよう耳元で伝える梓。台本には“トーク”と三文字書かれていても、普通のサラリーマンの棗にはなかなか理解しがたいものだ。すまん、と合図を送り、咳払い。

「……冗談だ。それはそうと、この間の話なんだが、道端に子猫がいてな。そいつ、じーっと俺を見つめてくるんだ。可愛くてな――」
「ふーん。で、オチは何なの? ないんでしょ? はい。では、コーナーの説明に入りたいと思いま――」
「おい、梓。なんでそんなに冷たいんだよ。優しくしてくれたっていいじゃねぇかよ……。俺、こんなの初めてで、緊張して……」
「は? ま、待って、何言ってるの棗……?」

 このセリフ、どこかで。
 梓は一瞬固まる。椿がよく冗談半分で言ってくるものか、いや、何か違う気がする。仕事でもないし。
 それにしても、キモイよ棗。梓は向かい側に座る棗を足で軽く蹴る。

「痛っ……冗談に決まってんだろ」
「キモイよ棗。キモすぎる。ごめんね、皆、棗がキモくて。あとで僕がみっちりしごいておくから今日のところは許してね」

 思いっきり睨みつける梓。
 口パクで“ウザイ、キモイ”と刺して、手元の資料に目を通す。新コーナーは、“ブラコンサンタがやってくる!”か。なるほど。今年の不運に僕たちが認定したら、慰めのセリフを言うんだね。いつもマイクを通じてやってることだけど、恥ずかしいね。
 ごほん、と身を引き締めるために咳払いをひとつ。新コーナーのメロディが流れた後、開口する。

「えーっと、どうやら期間限定の新コーナーみたい。このコーナーは、今年不運だったなと思ったことをリスナーの皆からおたよりをもらって、それを僕たちが不運認定する。認定されたら、慰めの甘いセリフをプレゼントするよ。じゃあ、さっそく、おたよりを読むね」

 ちらと真正面の男をうかがう。いつまで落ち込んでいるつもりだ。全く、どうしようもない卵違いの弟だ。梓はわずかに口角を上げて、そっと名を呼ぶ。

「棗」
「あ、ああ。ラジオネーム・さんからのおたよりだ」
「可愛い名前だね」
「そうだな。なになに……“梓さん、棗さんこんばんは。聞いてください! お付き合いしていた相手からフラれました。ショックです。立ち直れません。今まで要さんにたくさん貢いで、寝る時間を惜しんでゲーム機の電源を入れて要さんとばかり遊んでいたのに。要さん、ひどいんです。私のこと好きだって言ったくせに、妹ちゃんが忘れられないって。椿さん、棗さん、どうかこんな私を慰めてください(´;ω;`)”、だそうだ。何だこれは。かな兄、ゲームに出演してるのか? 初めて聞いたぞ」
「そうだね、棗。ここは家に帰ってから問い詰めるとして……」

 どう要をしごくか考えるだけでも口元が緩んでしまう。梓はそれを隠すように手で覆い、棗に視線を送る。

「認定、だな。じゃあ、まずは俺からでいいか?」
「うん、いいよ。さんを慰めてあげないとね」

 はい、どうぞ。手のひらを棗に向けて合図をする。音声スタッフはエコー音調整に入り、まるで耳元で囁かれるかのようにする。

『……いいか。かな兄なんかのところに行かなくたってな、充分魅力的だ。周りをよく見ろ。ほら、の隣には――俺がいる、だろ?』

 ファーオ。
 すっとんきょんな効果音が収録部屋にも響く。唖然とする棗。くすくす笑う梓。

「何だこの声は。雅兄か?!」
「うん。雅兄の声、録音したんだ。いいでしょ?」
「俺のセリフが台無しだ……」
「ぷっ。じゃあ、次は僕の番だね。……音声さん、お願いします」

 梓の開始の合図と共に、ロマンチックなBGMが部屋を包む。何で俺とこんなにも対応が違うんだ、と苛立つ棗を尻目に梓は続ける。

『大丈夫。大丈夫だから。元気出して、ね? かな兄はの魅力に気付けなかったんだよ。でも、僕なら気付ける自信がある。ねぇ、僕じゃダメかな……?』

 不覚にも、男であり兄でもある真正面のヤツに多少なりともドキドキさせられるとは。人気声優の本気を垣間見た棗であった――。


 棗にぐだぐだ言われながらも梓らしく軽やかにかわし、エンディングトークも終盤にさしかかっていた。

「サンラジオ・レジデンス/アンダーサイド、いかがでしたか? 棗が全く出来ないヤツでごめんね」
「俺のせいかよ」
「ここまで聞いてくれて、本当にありがとう。少しでもキミが笑顔になってくれたら、嬉しいな」
「第2回は、椿と風斗だ。明日もよろしくな!」

>>2014/12/17
明後日から、公式ラジオ再スタート! ということで。
第1回は梓・棗。お互いにいじらせたので満足\(^o^)/
グタグタギャグです。
私もこっそりと「ブラコンサンタがやってくる!」に投稿しました(笑)。

【補足】梓と棗がお互いにいじる→棗が結果的にやられる→結局は三つ子だから理解できる、という流れです。また、棗の序盤のセリフは、椿から教え込まれたものです。ファーオ、はサンラジのアレです。