冗談扱いの彼女


 僕に姉が二人も出来たのは一年前。
 美和の再婚相手の子どもで、血が繋がっているわけじゃない。
 第一印象は二人共々、フツー。平々凡々。それだけだった。
 最初に会ったのはサイドテールに髪を結っている妹の方。寝ている僕のところに現れたんだっけ。まぬけな顔してたっけ。思い出しても笑えるね。「馬鹿なおねーさん」って言ったあとにゴツンと頭に衝撃があって、見上げると握り拳を作っていた女がいた。それが姉の方だった。


 姉ーー日向は“フツー”じゃなかった。

 まずは、あの喋り方。
 なに、あれ。チャラ声優の女バージョンじゃんって感じ。「お! 今日はふーくんがいるのね〜」「ふーくんふーくん! 今日もかっこいいぞ★ 気をつけて行っておいで」「「今日のふーくんはご機嫌ナナメだね。はい、おねーさんからのプレゼント! グミをあげよう〜」とかさあ、ほんと、かぶる。顔と声が違うだけ。……優しさが入ってるのも違うけど。
 ともかく、この喋り方のせいで色気すら感じない。兄とは思わないけど、なんか、こう、ーー男友達みたいな感じ? 友達とかいないけど(僕には必要ないけど)。

 次に、見た目。行動。
 女らしくない。
 妹の方は身だしなみに最低限でも気をつけているのに、この人ときたら全くだ。僕と十は違うのに常にスッピン。ノーメイク。家にいる時はノーメイクでもいいんだけどさ。でも、この家、男だらけなんだし、もうちょっと気をつけてもいいと思うんだよね。部屋着が可愛くもなんともないパジャマだし(ジャージじゃないだけマシだけど)、髪は後ろでテキトーに束ねるだけだし。
 共用の風呂場を使った時なんか、バスタオル一枚で昴にーさんと出くわした時に「お風呂入るの? なんなら一緒に入っちゃう〜?」って言ったらしい。ありえなくない? 馬鹿じゃないの、この人。ここは気まずくなるのがフツーでしょ。それが、平然としてるなんてさ。男の方が照れてあたふたするとか。ありえないって。

 そして、キョーダイたちに対する言動。
 自分よりも年下組には毎日からかうのが日課。あの根暗にもからかってはケラケラ笑ってる。チビに関してはデレデレしながら一緒になってヒーローごっこして遊んでるけど。年上組にも冗談は言う。あくまでも羽目を外さない程度に。

 本当に、この人はおかしな人だったーー。




 今日は珍しく仕事が早く終わり、マンションに帰ってゆっくりご飯を食べようと思っていた。街灯がちらほらと付き始めた通りを歩いていると見覚えのある水色の車がハザードをつけて横に停まる。

「へ〜い、そこのイケメンな弟くん。おねーさんがお迎えに来たよ」
「……アンタって人は、ホント、学習しないよね」
「そんなこと言っていいのかな? やさしいやさしいおねーさんが可愛い弟のために仕事を早く切り上げて迎えに来たと言うのに! あ〜〜もうおねーさんショック!!」
「ああもう、面倒くさい。わかった、わかったって!」

 本当は嬉しい。わかってる。素直になれないだけって。冗談扱いの彼女にも嫌気が差すけど、素直になれない僕はそんな彼女がかえって都合がいい。
 後部座席に腰を下ろすと車は動き出す。オーディオから流れてくるのは、気まぐれと称してあげた朝倉風斗のファーストCDアルバムの曲だった。

>>2018/01/17
生意気な風斗がペースを崩されるようなお話を書いてみたくて(連載予定でしたが短編に……)。