そばにいてよ


 ーーおはよ。
 ムッとした顔でフライパンを握るに声をかけたって返事はなかった。それでも僕の朝食を用意してくれるってことは本当に嫌ってるワケじゃなさそうで安心する。


 さすがに昨日はやり過ぎたと思ったーー。

 昼頃に仕事の待ち合わせで駅前広場に向かうと何故かそこには彼女が、それも家では着ないような清楚なワンピースを着ていて。「あっ!」と目線が合って手を振られたから右手をあげようとしたところで、後方から息を切らしながら走ってくる人が「待たせてごめん」と僕を追い抜いて彼女の手をとった。笑い合う二人がいかにも幸せそうに見えて苛ついた。姉さんの隣りにいるアイツは誰なワケ……?
 フツーに言えばよかったんだ。でも、それが出来るほどあの時の僕には余裕がなくて。 
 無理やり割り込んで「僕のに何してんの? 人の女をとらないでくれる?」って弁明する男に耳を貸さないままの腕を引っ張って、来た道を戻る。人通りが少なくなったところで止まり、再度、問い詰めても「違うの」とだけ。

「風くん、あの人は私の……」
「姉さんあんな人がタイプなんだ? 友達? それとも彼氏っていうワケ? ふーん、そうなんだ、へえー? 姉さんセンスない。ダメダメのダーメダメだね」

 俯く彼女は肩を震わす。あ、泣かせちゃったかと思えば急に顔を上げる。スローモーションで飛んでくる拳が見えた気がした。

「……人の話は……最後まで聞けえ、このクソガキがあああ!」
 


 僕にも非はあったけど、姉さんだって姉さんだ。「遠くにいる兄」の存在なんて教えてくれなかったし。そもそもあんな紛らわしい行動をするのもどうかと思う。それに、一応アイドルの僕の顔を殴ってくるとか、さ……いや、まあ、今回は僕も悪いってしょーがなく認めてあげてるからとやかく言わないけどさ。
 やっぱり嫌じゃん? 目の前で好きな人が他の男と仲良くしているところなんて。

「ねえ、姉さん……昨日はごめん」

 料理が終わり、皿に盛り付けているところを見計らって後ろから抱きしめた。去年までは同じくらいだった背が、今では僕のほうが高くておさまりが良くなっている。彼女の首筋に顔を埋めると、くぐもった息が漏れる。それにそそられるように舌先でちろちろと耳たぶを舐めて噛みつく。

「好きだよ」
「んんっ、風くん……」

 これからもそばにいてよ。鈍いオネーサン。

>>2017/12/27
たまには夢主さんだって怒るよねと思って……。