涙拭いてあげる


 が泣きながら帰ってきた。
 元気だけが取り柄の姉さんが目を腫らしてまで泣くだなんで何があったんだろう。その場にいる兄弟達は彼女に声をかけるが、首を振るだけで何も言わない。あのチャラ声優でさえもお手上げ状態。
 彼女は弱々しい声でお礼だけを告げて、夕食をトレーに乗せてリビングを去った。
 気まずい空気が流れる。こういう時はそっとしておくのも大事なのにそれが出来ないんだからさ、ほんと、ここのキョーダイはみーんなの虜になってる。心配なんだ。恋愛感情あるにしても、ないにしても、彼女の行動がいちいち気になってしまう。
 かと言って、をアイツらにあげるつもりはさらさらないけど。
 僕はくだらないね、とセリフを吐き捨て、ソファーにあったブランケットをさり気なく取る。そして、興味がないフリもおまけにして後を追った。



 ほら、いた。
 夜は寒いのによくやるよ。
 気付かれて逃げないように足音を消して近寄れば、鼻先を赤くしてボーっと空を見上げる阿保ヅラがあった。いや、無理して笑ってるんだ……作ってるんだ。彼女はそういう人だ。

「……何してるの。無い頭で星座でも探してるワケ?」

 逃げられないように――後ろから腰に手を回して抱き寄せる。羽織っているブランケットで彼女を包み込み、自分の顎を肩にのせた。

「アンタさあ、馬鹿だよね。前にも無かったっけ? 学習しなよ」
「あ、あはは……よく覚えてるね。ふーちゃん天才……」
「ハァ……元気ないくせにそんなジョーダン染みたこと言えるんだ。馬鹿な姉さん。ホント馬鹿だよ」
「馬鹿馬鹿言わないの。いつか好きな子に同じように言ったら嫌われちゃうよ……」
「好きな子、ねえ? 僕がこーんなに良くしてるのにどっかの誰かさんは鈍いから気付かないだけだけど」

 振り返るにそっと唇に触れるくらいのキスをする。
 しょうがないなあ、もう。特別だからね。答えを言うのはしゃくだけど、今日だけはいいかもしれない。

「誰に泣かされたのか知らないけどさ、そんなヤツとっとと忘れちゃえば? 周りをもっとみてごらんよ。アンタの周りには誰かしらいるだろう? ウザいくらいにね。気付いてないだけ。兄さん達はアンタが可愛くて仕方がないみたいだし。それは僕も同じだけど。いや、同じじゃ困るね。それ以上だね。どうしてかわかる?」

 ふるふると首を横に振る。僕は彼女の頬を手で包み込み、目尻に付いた涙を親指で払う。

をずっと見ているからに決まってるでしょ。そんなヤツなんてやめてさ、僕にしなよ。涙くらいいつだって拭いてあげるからさ」

>>2018/01/04
S4U!シリーズはドラマCD風な形式がほとんどですが、今回は普通の形式になりました。