両手いっぱいのアスター


 途端に贈り物をしたくなった。
 豪華なものじゃなくて、ありふれたものでいい。
 彼女が普段使うようなペンや付箋にしようか、それとも紅茶やコーヒーがいいかな。
 彼女の笑った顔が見たいんだ。
 僕があげた物を使う時に僕を思い出してほしいんだ。僕と離れている時間でも隣りにいるかのように想ってほしいんだ。

 なんて自分勝手な思いなんだろう。
 浅はかな考えだって怒られてしまいそうだね。誰にってわけではないけれど。

 さ、いい加減決めてしまわないと家に着いてしまう。
 兄弟たちに見つかったら後々面倒になりかねないからね。自転車のペダルを漕ぐ足をふと止め、あたりを見回す。雑貨屋さん、ケーキ屋さん、パン屋さん、それからお花屋さん。どの店も贈り物をするにはぴったりだ。雑貨屋さんなら梓兄さんが行きそう。ケーキ屋さんなら椿兄さんが、パン屋さんなら京兄さんが行くかな。だったらやっぱり、お花屋さんだよね。花の手入れとか嫌いじゃない。寧ろ、するほうだから。
 そうと決まればどの花にするか選ばないと。バラは……ストレート過ぎるかな。じゃあ……そうだな。紫のあの花にしようか。紫メインにして、白とピンクを数本入れたブーケのようにしてもらおう。小ぶりで可愛らしくて彼女に合うだろうからーー。



ちゃん、待った?」

 遊歩道の時計塔の下にはもう彼女が待っていた。遠くを見つめる彼女はどこか虚ろで儚げで。手の届かないところに行ってしまいそうで。僕に呼ばれた彼女は控えめに手を振った。

「急に呼び出してごめんね。どうしても今渡したかったから」

 はい、と僕は両手いっぱいのブーケを渡す。ありがとう、とにこにこするちゃんにやっぱり似合っていてこれを選んでよかったと思う。
 ーーアスター。
 ーー僕の愛は貴女の愛よりも深い。
 知られることはない想いをこの花に込めて。

>>2018/01/05
テーマの花:アスター(エゾギク)
花言葉:「私の愛はあなたの愛より深い(紫のアスター)」