（人気アイドルグループ「fortte」の朝倉風斗に恋人がいる。インターネット上ではその話題で持ちきりだった。呟き投稿SNSでは、“衝撃情報。詳細・拡散求む”と題し、朝倉風斗と仲良く手をつなぐ女性の写真が上がり、次から次へと拡散されていた。当の本人や関係事務所は事実を否定。本人のSNSにはその日以降、投稿が途絶えてしまった。ちょうど撮影もコンサート活動もなく、オフに入るということで、釈明会見が急きょ行われることとなった。20時からの生放送番組で。会見まであと小一時間。風斗は鞄から携帯電話を取った――）



　あ、もしもし姉さん？　うん、僕。
　すぐに出るなんて、えらいじゃん。何コール？　2コールくらいじゃない？　褒めてあげるよ。そばにいたら頭でも撫でてあげたのに。

　え？　早く出ないと僕が拗ねるからって？
　ちょっと。聞き捨てならないんだけど。
　僕が拗ねる？
　違うね。怒ってるんだけど。いいの、そんなこと言っちゃって。あとでどーなっても知らないよ？　本気出したら、きっとアンタ泣いちゃうだろうけど。
　暴力反対ー、って言われても。手加減してるしー？

　やっぱ、と話してる時って……落ち着くんだよね……。

　え？　聞き取れなかったからもう一回言ってって？
　ヤだ。教えてあげなーい。ちゃーんと聞いてなかった姉さんが悪いんだし。伝えるつもりで言ったんじゃないから。

　それよりもさ、姉さん。20時からテレビ付けてよ。
　何だっていいから付けて。あ、出来れば、リビングで。音量も、どのスペースにいても届くくらいにして。姉さんは真ん中の特等席で、ね？
　じゃ、僕行くから。また後で――。


（風斗は通話を切り、スタジオに入る。は何が何だか分かってはいなかったが、とりあえずかわいい義理の弟の“かわいい命令”を遂行すべく、テレビのリモコンに手を伸ばした。時刻は20時を回ったところ。速報のテロップが流れ、慌ててチャンネルを変えた。朝倉風斗の釈明会見番組に。固まるをよそに、周りにたまたまいたキョーダイ達は食い入る。風斗は笑顔を崩さず、つらつらと言葉を並べていく。テレビのスピーカーから流れる風斗の声は、ほんの少し大人びていた）


　……ネットに流れている画像は、間違いなく僕です。ええ、はい、相手は女性です。

　相手は誰か、ですか。納得していただけるか分かりませんが、相手は僕の姉です。
　僕、姉さんと仲がいいんです。男兄弟が多い家ですけど、姉さんと一番に腹を割って話せます。心を許しています。姉さんが大切です。もちろん、ファンの皆さんも大切です。僕だけじゃなくて、フォルテの他のメンバーも、ファンの皆さんの笑顔が僕たちの支えですから。

　姉さんのことどれくらい好きか、ですか。そうですね……。

　キョーダイっていう縛りが鬱陶しくてこの上なく邪魔で、自分が年下だっていう劣等感もウザくてさ。自分から攻めても姉さん気付いてくれないし、他の兄のマネしてるのかって笑われるし。あー、もう、ほんと、本気にさせたくせにウザイですよ。僕の姉さんは……ウザくて愛しいです。同じ体温で生きていける。この先、たぶん死ぬまでずっと。それくらい、僕は姉さんが好きですね。

（脚色し過ぎましたね。冗談ですよ。風斗はお茶目ないたずらっこのように笑う。スタジオ内ではいつもの悲鳴が飛び交う中、にわかに上がる口角は朝日奈家にしか気付かれなかった）