10:00 PM


(人気双子声優の兄・朝日奈椿に恋人がいる。インターネット上ではその話題で持ちきりだった。呟き投稿SNSでは、“衝撃情報。詳細・拡散求む”と題し、椿と仲良く手をつなぐ女性の写真が上がり、次から次へと拡散されていた。当の本人や関係事務所は事実を否定。本人のSNSにはその日以降、投稿が途絶えてしまった。ちょうど声優活動も撮影もイベントもなく、オフに入るということで、釈明会見が急きょ行われることとなった。ただし、22時からのラジオ番組で――)



『BC放送、朝日奈椿と……梓の、ミッドナイトはツインスター!! ――ということで、今夜も始まりました~★』

 うっし、息もぴったり。さすが俺たち~。 
 今夜もラジオのタイトルコールがいい感じにハモる。双子声優ってよく梓と一緒に仕事をすることが多い。ラジオもそうだった。
 梓は特別。兄弟の中でも、梓だけは特別なんだ。兄弟っていうよりかは友達以上な……。
 あっ、勘違いしないで? 大事にしたいって思った相手はもちろん彼女だから。
 ちらりと俺の相棒・其の2をつっついてみる。ツンツン。ぎろりと睨み返されたけど、気にしなーい。だったら「やめてください」って嫌がりながらも、にこにこな顔してるのに。

 オープニングトーク直後、梓は内容変更の旨を伝えると真横にいる俺を見つめる。大丈夫だって、妹の説明すりゃあいいんだし~、って言葉にはしないけど訴えるようにケラケラと笑って腕を頭上で組んだ。

 えーっと、皆に聞いてほしいことがあるんだ。
 次の言葉は決まってる――。

 俺、大切な人がいるんだ。ひとりは皆もよーく知ってる、俺の弟・梓。俺んとこね、ちょー大家族なの。兄弟多くてさ。あ、俺、上から5番目ね。梓は6番目。まだ下に8人いるって、珍しい構成だって自分でも思う。俺たち双子じゃなくて、本当は三つ子なんだ。ただ、俺と梓は一卵性、もう一人はタマゴ違いなんだけど。だからかな、余計に梓が“特別”。小さい時から変わってない。何をするにも一緒でさ、声優の道も俺が引っ張って連れてきた。梓は何でもできちゃう天才肌で努力家だから、抜かされちゃったけどね――。
 ふぅ、と吐く息。今夜のラジオは、いつものつばあず話だけじゃ終われない。梓と仕事をやっていくためにも、との関係を壊さないためにも。

 で、ここからが本題。
 SNSであがってる写真のこと。あれね……俺たちの妹になるんだよね。恋人とかじゃなくて、ただの妹。かーいい妹! 兄と妹が仲良くお買いものしてた写真なんだ~。ただ、洋服買いに行くだけじゃ勿体なかったから、代官山でカフェして~、ぶらぶらして~って感じ。
 だから、誤解しないでほしくて――……。


 嘘は言っていない。
 妹が可愛くてたまらないって事実だし? お買いものデートも大体そんな流れだったし。でも、俺は妹以上の……それ以上の特別な関係を望んでる。妹って言う肩書を今は利用せざるを得なかったけど、ホントはさ、あんまり使いたくないんだよね。
 だって、俺、をお嫁さんとして迎えたいから。

 あー、このラジオ聞いてたらどーしよー。まだ気持ち伝えてないけど、もう伝えないとヤバくね……。
 ラジオ放送後、控室に駆け込むや否や無造作に置かれたままの携帯電話で連絡をする。通じろ、通じてくれ。
 ぷつり。
 通話呼び出し音は消えた。もしもし、? 呼びかけてもうんともすんとも無い。まずいな。ラジオもろに聞いちゃったか。もう一度、と吐息交じりの声で呼べば、「つばき」と弱々しく返ってきた。目見て、手握って、ぎゅって抱きしめて告るつもりだったけど――。

「ごめん。さっきのラジオ、半分は嘘だから。俺が考えてることってね、のことばっかりだから。マジで。上手く言えないけど……あーもう、好き、好き、好き、好き、大好き、愛してる!」

>>2014/12/21
ちょっと変わり種を。「20時」のつばあずバージョンです。
ただし、最初は仲良しつばあずが最前線に来てる感じが。拙宅の椿は、どっちも大切なのです。

【補足】テーマは、妹大好きな椿×年下夢主。