10:00 AM


(俺達とはコンビとして仕事をすることが多かった。昔っからの馴染みで学校も同じで家も近くて……。神サマが面白がってやってるんだーっていうくらい、ずーっと一緒だった。それは、就職先もそうだった。それぞれ高校卒業後は違う道に進んだはずなのに、辿り着いたところは声優。事務所も同じだった。マネージャー同士も仲がいいのか、仕事の時間もオフ日も合わせてくれる。そんな気遣いがありがたかった。ただ、今週は見事にバラバラでさすがにへこんだっけな。そんな俺とは言わずもがな、友達以上な深い関係だった。お互いの家を週替わりに行き来してる。今週は俺の部屋だ――)



 入ってくるなり、手首をつかんで引き寄せる。
 背格好は変わらないとからかわれているけど、こうやってぎゅって抱きしめればの方がずっとずっと小さくてか弱い。
 小さい頃でいつまでもいるわけない。俺だって成長した。ぐーんと伸びたんだからな。

 心配なのが「何でもします声優」っていう名前が独り歩きしていること。
 俺よりも極端にDVDやらネットTVやらのバラエティ企画で体を張ることが多くて、いつも後方で冷や冷やしてんのよ、俺。
 こいつのかーいい顔に、体に傷がついちゃったらどうしてくれんだよ。
 この間なんてさ、有料配信だからっていう理由で、ビリビリに破れた下着を着せられたとか呟いててさ。泣きそうな顔して笑ってた。見てらんねえよ。そんな危険な仕事から外してやりたくて仕方がない。でも、彼女は「何でもします声優」でやってきている。どんな内容でも笑顔で全力で一生懸命にする。そのことも評価されている。辞めさせられないんだ。ケガさえしなけりゃ最悪、いい――。


 とりあえず、「抱きしめ返してくれる=ケガをしていない」ことがわかったから、一旦はなしてやっか。ドアの前で立ったままってーのも、あれだし?
 の背中をトントンとやんわり叩いて合図する。

、ソファーに行こっか」

 ところどころはねている髪を手ぐしで直しながら彼女を促せば、ふるふると顔を左右に振って嫌だと答える。もうちょっと俺を感じていたいんだと。かーいいこと言っちゃってさ~。

 ソファーでこの続きがしたいんだけど、ほんの少しだけならこうしていてあげるよ。
 ゆるめてだらりと下がった腕をあるべき場所へ戻し、再び抱きしめる。肩に顔を埋めれば、俺と同じ洗剤を使っているのに特別な香りがした。その香りの虜になっちまうじゃん。一番に漂わす部分に顔を近づける。喰らい付きたい衝動が抑えられず、そこを味わう。

「やっ……ちょっと、椿っ!」
「いーじゃん。俺、の彼氏だし、が好きなんだからさ~★」
「そ、そういう問題じゃなくって……! んんっ!」
「うん? もしかして感じちゃった? 首なめてるだけなのに? 厭らしい子だぁ……」
「もう! 椿なんか知らない!」

 プイッと顔をそむけられる。耳たぶまで真っ赤にしちゃってさ。ホント、可愛いんだから。
 こうやってふたりで甘ったるい生活を送るのが、最高に幸せな時間だって俺は思う。

>>2015/01/01
【補足】テーマは、いつもの椿×夢主。仕事柄生活が不規則なので、いつも10時に約束をしているという設定です。