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(僕は退屈だった。毎日同じ事の繰り返しで。歌って踊って撮影されて……。時々学校で授業を聞くけど、ほとんど僕のスケジュールは仕事で埋め尽くされていた。二人の姉さんが家にやってきてからは退屈しのぎに弄んだ。絵麻は想像通りのフツーの反応。「いい子ちゃん」でつまらない。でも、はどこか違った。いい子ちゃんだけど、何かが違った。気が付けば、いつの間にか目で追っている自分がいた。どこにでもいそうな容姿で性格は悪くはない、年上の女性に夢中になるなんて、思ってもみなかったんだ。狙ったモノは奪ってでも取りに行く。僕は姉さんを1年がかりで振り向かせた。そして今夜も、僕の可愛い可愛い姉さんに電話をかけるために、携帯電話の通話ボタンを押す――)



 ……もしもし、姉さん?

 何、その眠たそうな声。
 まだ日付変わったばっかりなんだけど。もしかして寝てたの?
 まぁ、いいけど。姉さんがいつどこで何していようと、僕には関係のないことだし。
 それに、僕だって暇じゃないし。
 
 え? じゃあどうして毎日電話してくるのって?
 そんなの決まってんじゃん。姉さんに電話するのが――、面白いからだよ。
 朝にかければ慌ただしく「おはよう、風斗くん。いつも早起きでえらいね。いってらっしゃい」って、毎回同じセリフで言ってさ。ただ、その時の姉さんの状況で雰囲気が違ってて。寝坊助の姉さんだから、もごもごさせてることがほとんどだけど。もっと早く起きれないわけ? って思うけど、途中で「ああぁ!」とか「うぎゃっ!」とか色気のない悲鳴がBGM化して入ってきて、それがどうしようもなくおかしくて笑っちゃう。
 昼にかければ沈んだ声色で「ごめん、風斗くん。あまり長く話していられないの。残りも頑張ってね」って。長く話していられないのは僕も同じ。それに、僕はいつも頑張ってるけど? たまには違うことも言えないわけ?
 夜にかければやけに落ち着いて「今日もお疲れさま。早く帰っておいで」って。家に帰ってきても、姉さん爆睡じゃん。白目向いてよだれ垂らして寝てる顔、最高。僕の携帯の待ち受けにしてる。冗談だけど。

 僕と姉さんは生活のリズムが合わないから会えないのは仕方ないけど、腹立たしくも思うんだよね。僕があと5、6年くらい早く生まれていたらって。あー、僕らしくない。せめて電話でつながっていたいって初めて思ったよ。

 ちょっと……黙り込まないでよ。
 嘘はついてないから。それに、こんなドラマみたいな甘々なセリフ、好きでしょ? 


 仕事が慣れなくて、要領も分からなくて、人間関係も難しくて。姉さんに余裕がないってこと、近くで見ていなくても想像くらいできるから。あんまり僕を年下だからって子ども扱いしないでくれる? 姉さんのことなら手に取るようにわかるし。
 今、考えてることだって……。

 ふふっ。言われなくても当てるから。「どうして“姉さん”って呼ぶの? “”って呼んでくれないの?」でしょ。

 ほーら、黙り込んだ。僕の勝ち。
 勝ち負けは関係ない、って?
 はぁ……、姉さん、前にも言ったけど“世の中は生きるか死ぬか、勝つか負けるか”なんだって。もう少し姉さんは薄汚れた社会も知った方がいいと思うよ。“弟”として心配です。

 え、何? なんでアンタ鼻すすってんの?
 風斗がいじめる、だって?
 ……呆れた。僕をいじめてるのは姉さんだよ。
 いい加減、気付いてよ。電話越しで話す時、は僕を気遣ってばっかりで自分のことは適当に扱って。雅臣兄さんに聞いたよ。違うとは言わせない。体調崩してるんだって? 現在進行形で。ちゃんとベッドで大人しくしてるの?
 心配かけたくなかったって、僕、こう見えてアンタの彼氏なんですけど。頼ったらどうなの? それとも、頼れないって言いたいの?
 ごめん、じゃ済まさない。
 泣きじゃくったってムダだから。
 
 ああ――っ! もう、わかった。わかったから、どっかの馬鹿みたいに喚かないでくれる? 耳が痛い。

 それよりも、いつまで僕をこんな所に座らせている気?
 気付かないってアンタ、本当に馬鹿なの? 玄関の鍵締めないと、こうやって誰かが勝手に入ってくるかもしれないのに――。



「ねぇ、こっち向いてよ。治るまで部屋から一歩も外に出さないから。大人しく看病されてなよ、

>>2014/12/10
このお題は風斗で書こうと決めていました。ドラマCDっぽくなっていたら幸いです。

【補足】テーマは、ちょいデレ風斗×社会人夢主。
風斗くんは「姉さんに電話するのが――」“好き”とか“彼氏なら当然のこと”とかそんな類の言葉を言おうと思ったけど、素直に言うのも面白くないからちょっと意地悪をしたのです。また、初めから夢主さんの部屋で電話しています。